「独立コンサルとしてやっていきたい。実力はそれなりにあるつもりだ。でも、会社の名刺が手元から消えた瞬間、自分は何を売って、誰に声をかければいいのか――そこが、どうしても見えない」。そう思って検索してきた方に向けて書いています。

私はアビームコンサルティングとアクセンチュアで、SAP(エスエーピー。企業のお金・購買・在庫・人事などを一本につないで動かす業務システム)の財務会計まわりの導入を長くやってきました。その後、独立してNever Red株式会社を立ち上げました。正直に言うと、独立を決めること自体より、「会社の看板が外れたあとの最初の数ヶ月」のほうが、はるかにしんどかった。実力が足りなかったからではありません。動き方を、ただ知らなかったからです。この記事では、独立コンサルが最初の1件を取るまでに、何を、どの順番でやればいいのかを、当事者の目線で正直にお話しします。きれいごとは省きます。

看板が外れて、最初に気づく「裸の不安」

辞める前、私は自分の実力を信じていました。プロジェクトを回せる。難しい現場でも、なんとか結果は出してきた。だから独立しても食べていける、と。ところが会社を出た翌週、自宅の机に座って気づいたのは、いざ仕事の話をしようにも、声をかける相手の連絡先が手元にほとんど残っていない、という事実でした。それまでの仕事は、会社が連れてきた案件に自分が乗っていただけだった。仕事が生まれてくる入口を、私は一度も自分の手で持ったことがなかったんです。

ここが、独立コンサルがいちばん見落とすところだと思います。私たちが売っていると思い込んでいるのは「コンサルティングの実力」ですが、独立して最初に問われるのは、実力ではなく「あなたという人を、困ったときに思い出してくれる人が何人いるか」です。実力は、ゼロ件目にはほとんど効きません。1件目が始まって、初めて効き始める。だから順番が大事なんです。先に実力を磨こうとして、半年こもって資格を取り、その間に誰からも声がかからない――独立で食えなくなる人の、いちばん多い崩れ方がこれです。私自身、最初の一ヶ月は、Webサイトの文言を直すことに逃げていました。本当は、人に連絡するのが怖かっただけなんです。

裸になって最初にやるべきは、実力の証明でも、立派な肩書きでもありません。「自分が誰の、どんな困りごとを、いくらで解けるのか」を一文で言えるようにすること。そして、その一文を持って、すでに自分を知っている人に会いに行くこと。やることは、まずこれだけです。順番さえ間違えなければ、最初の1件は、思っているよりずっと近い場所にあります。

「最初の1件」は、知らない人からは来ない

独立直後の集客で多くの人がやるのは、Webサイトを作り込み、SNS(エスエヌエス。X(旧ツイッター)などの交流サービス)を始め、知らない誰かが見つけてくれるのをひたすら待つこと。気持ちはよく分かります。私もそうしたかった。知らない人に営業するのは怖いし、知っている人に「独立しました、仕事ください」と言うのは、もっと怖いからです。でも現実は逆で、独立1件目の大半は、過去に一緒に働いた人・あなたの仕事ぶりを直接見たことがある人から来ます。これは私自身もそうでしたし、独立した知人に聞いても、ほとんど例外がありませんでした。

理由は単純で、コンサルという仕事は「外れたときの被害が大きい」買い物だからです。発注する側からすれば、できれば仕事ぶりを知っている相手に頼みたい。だから、知らない人がサイトを見ただけで、いきなり大きな仕事を任せてくることは、まず起きません。最初の1件は、信頼の貯金がすでにある場所から取りに行くのが、いちばん近くて、いちばん事故が少ない。これは精神論ではなく、ただの確率の話です。

具体的な動きはこうです。前職の同僚、昔のプロジェクトで隣に座っていた他社の人、発注側にいた担当者――この人たちを、まず30人ほど書き出します。そして「独立した」という事実を、売り込みではなく、近況の報告として伝える。「いま、こういう領域で独立して動いています。もし周りで困っている人がいたら、思い出してもらえたら嬉しいです」。文面はこれくらいで十分です。大事なのは、自分に発注してくれと頼むことではなく、「相手の頭の中に、私という選択肢を一つ置いてもらう」こと。発注は、相手に必要が生まれて初めて出てくるもので、押して取るものではありません。むしろ押すほど、相手は引いていきます。私は最初これを履き違えて、報告のつもりが催促になってしまい、知人を一人気まずくさせました。

連絡を取り始める前に、自分が何を売るのかを、自分の言葉で固めておく必要があります。その整理の順番はコンサルの独立準備は何から始めるかで書いたので、まだ準備の入口にいる方は、そちらから先に読んでください。

何を売るかは「狭く」決める。広げると、誰の記憶にも残らない

独立したてのころ、私は「SAPも経理も業務改善も、ひととおりやれます」と言っていました。器用に見せたかったんです。でも、これは完全に逆効果でした。「なんでもやれる人」は、相手の頭の中で、どの引き出しにも入らない。声をかけるきっかけそのものが生まれないんです。逆に「あの人はSAPの財務会計(FI=エフアイ。会社のお金そのものを扱う領域)の人だ」と一言で覚えてもらえると、その困りごとが現場で発生した瞬間に、まっさきに名前が浮かぶ。記憶に残るのは、広く浅い人ではなく、狭くて輪郭のはっきりした人です。

だから最初に決めるべきは、「自分の旗を、どこに一本立てるか」です。やれることを並べるのではなく、「これで困ったら、まずこの人」と言われたい一点を選ぶ。私の場合は、SAPの財務会計の導入と、その前後にある経理の立て直しでした。怖いのは、狭めると仕事が減るんじゃないか、という不安です。私もそこで長く迷いました。でも実際にやってみると逆で、狭めるほど「あなたに頼みたい」が増えていきました。広い人は値段で比べられて買い叩かれ、狭くて深い人は名前で指名される。これは独立してから、何度も身にしみて分かったことです。

旗を立てたら、その旗に合った言葉で、自分を一文で説明できるようにします。「私は◯◯で困っている◯◯な会社の、◯◯を解決します」。この一文が詰まらずに言えないうちは、まだ売り物が固まっていない証拠です。固まらないまま人に会うと、相手も「で、結局この人には何を頼めるんだっけ」となって、せっかくの一回が流れてしまう。狭く、はっきりと。これが独立コンサルの土台になります。

値段は、安くしないと取れない――という思い込みを捨てる

最初の1件を前にすると、ほぼ全員が同じ罠にはまります。「実績がないんだから、安くしないと選んでもらえない」。私もそう思い込んで、最初の見積もりを相場よりかなり下げて出しかけました。でも、これは長い目で見ると、自分の首を静かに絞めます。一度安く受けると、その値段があなた自身の基準値になってしまい、二件目以降も上げにくくなる。そして安さで選ばれた関係は、たいてい安さでしか続きません。値段の話になった瞬間に、また下から比べられるんです。

参考までに、市場のおおよその水準だけお伝えします。SAP系で未経験から入る場合の単価は、月60〜75万円が一つの目安。経験を積んで、プロジェクト全体の進行を取りまとめる立場(PMO=ピーエムオー。プロジェクト全体の進み具合を管理する役割)になると、月250〜300万円あたりが一つの目安です。ただし、これは案件の規模や役割で大きく動きますし、私が保証できる数字でもありません。あくまで「だいたいこのあたり」という肌感覚として受け取ってください。お伝えしたいのは具体的な金額そのものではなく、あなたが本当に解いている問題の価値で値段を決めるべきで、不安で決めてはいけない、ということです。

値段は放っておくと「相場」と「自分の不安」の二つで決まりがちですが、本来は「相手が、その解決にいくら払う価値を感じるか」で決まるものです。同じ作業に見えても、相手にとっての困りごとの深さで、価値はまるで変わる。だから最初は、自分でもほんの少し高い気がするくらいの値段を出して、相手の反応を見るくらいでちょうどいい。安くして取った1件は、達成感だけは残っても、次にはつながりにくい。値段の決め方は独立の成否を本当に左右するので、独立コンサルの単価の決め方に具体的な考え方をまとめました。最初の見積もりを出す前に、必ず一度目を通してほしいところです。

最初の1件は「完璧」より「終わらせて、次につなげる」

ようやく1件目が決まったとき、私は気負いすぎました。実績がない不安を、過剰な働きで埋めようとして、頼まれてもいないところまで手を広げ、結局自分が消耗してしまった。でも、独立コンサルにとって最初の1件で本当に大事なのは、120点の成果物ではありません。「約束したことを、約束した形で、ちゃんと終わらせる」こと。そして終わったあとに、「次もこの人に頼みたい」「知り合いに紹介したい」と相手に思ってもらえること。これが、2件目を連れてきます。

独立後の仕事は、新規をゼロから探し続けるよりも、一度信頼してくれた人から次が生まれる流れを作るほうが、はるかに楽で、収入も安定します。1件目を丁寧に終わらせ、終わったあとに「もし困っている人がいたら、紹介してください」と一言だけ添える。この小さな動きが、3件目、4件目を運んできます。私の仕事の多くは、今もこの紹介の連鎖の上に乗っています。知らない人を追いかけ続ける独立は、ずっと全力で走り続けて、どこかで息が切れる。すでにある信頼を丁寧に育てる独立は、最初こそ地味でも、後半が楽になっていきます。

最後に、独立して一番伝えたいことを書きます。最初の1件が取れるかどうかは、実力の差ではなく、動く順番と、怖さを乗り越えて人に連絡できるかどうかの差です。実力のある人ほど、プライドが邪魔をして「独立しました、仕事ください」が言えない。私もそうでした。でも、その一通のメッセージが、最初の1件を連れてきます。完璧に準備が整う日は、たぶん来ません。旗を一本立て、一文で自分を言えるようにし、知っている人から順に連絡する。今日できるのは、リストに30人の名前を書き出すこと。それだけで、独立は実際に動き始めます。