独立した人が最初に困るのは、たいてい「営業のやり方」ではありません。そもそも、どこに需要があるのかが分からないことです。
案件情報は目に入る。ただ、それは誰かが集めてきた結果であって、**その手前で「どういう会社が発注を出しているのか」を見た経験がない。**会社員のときは、自分が発注される側にいたからです。
当社は2026年8月、自社の事業のために需要側を定義する作業をやりました。どういう会社なら独立した人の仕事が成立するのかを、実際に46社を調べて整理したものです。
社外に出す前提で作った資料ではありませんが、受ける側にとっても、そのまま使える物差しになっていると思ったので、この記事で開きます。実名は出しません。型と条件だけを書きます。
何をしたか(と、最初に間違えたこと)
やったことは単純です。**候補に挙げた会社のサイトを2026年8月12日に機械で取得し、可視テキストだけを対象に、SAP・ERP・PMO・S/4HANAといった語が実際に何回出てくるかを数えました。**そのうえで、その会社に当社が案件を受けにいけるかどうかを判定しました。
正直に書くと、この作業は初版が社内の監査で差し戻されています。
理由は、「実測」と書いてあった列が実測になっていなかったことです。最初の判定は生のHTMLに対する小文字の部分一致だったので、sapporo(札幌)、msapplication、enterprise、referrerpolicy といった無関係な文字列を、SAPやERPとして数えていました。
作り直した結果がこれです。
| 初版(差し戻し) | 作り直した版 | |
|---|---|---|
| 判定の対象 | 生のHTML全体 | script・style・コメント・タグを除いた可視テキストのみ |
| 照合の方法 | 小文字化した部分一致 | 英字略語は大文字小文字を区別した単語境界 |
| SAPが1回以上あった社数 | 31社 | 22社(9社が誤検出だった) |
| ERPが1回以上あった社数 | 30社 | 9社(21社が誤検出だった) |
**30社が9社になりました。**やり方ひとつで、実態の3倍の数字が出ていたことになります。
なぜこの話を先に書いたかというと、独立した人が案件を探すときにも、まったく同じことが起きるからです。「この会社はSAPに強い」という印象は、たいてい会社案内の文言から来ています。その文言が実際の案件量を表しているとは限りません。印象ではなく、その会社が何を外に出しているかを見たほうが早い。
発注が出る会社は、6つの型に分かれた
46社を並べた結果、当社は需要側を6つの型に分けました。型ごとに、噛み合う領域と、発注の出方が違います。
| 型 | どんな会社か | 発注の出方 | 当社の判定 |
|---|---|---|---|
| 1. 実装ベンダー(元請・準専業) | ERPの導入を自社で元請または一次で請け、実装チームを常時抱えている | 「この領域の設計一式」「移行設計一式」と、領域・工程の単位で外に切り出す | 受けられる |
| 2. 会計・経営管理ソリューション/会計系コンサル | 連結会計・決算・経営管理をコアに売っている。会計事務所系のコンサルを含む | 決算早期化・連結導入・経理業務改革を、成果物と工程で切って出す | 受けられる |
| 3. 独立系SIerのERP部隊 | ERP案件を持つが専業ではない。二次請けから直取引を増やそうとしている層 | **1名単位の稼働提供に寄りやすい。**工程で切れる案件もある | 条件付き |
| 4. 変革PMO・業務コンサルのブティック | 上流とPMOを持ち、実装はベンダーに任せる | ワークストリーム単位で切る文化がある | 受けられる |
| 5. グローバルITベンダーの日本法人 | 日英の両方が要る案件で、日本の要員を恒常的に外から調達している | 調達の枠は制度として存在するが、最終利用者先への常駐になりやすい | 条件付き |
| 6. 事業会社の社内部門(直取引) | 自社でシステム移行や決算早期化を進めている事業会社 | 自社のプロジェクトの一員として人を置きたい | 原則やらない |
一般には6番がいちばん良いと思われています。中間が入らないので単価が高いからです。実際、当社の資料でも単価の向きは「高(仮説)」と書いてあります。
それでも、当社は6番を当面やらないと決めました。
決め手は、規模でも知名度でもなく「工程で切れるか」
6つの型を分けた軸は、規模でも案件量でもありません。その会社が、仕事を工程で切り出す習慣を持っているかどうかです。
なぜここが決定的かというと、法律上の線がここで引かれるからです。
- 発注が「この領域の設計を一式」という形なら、**進め方の指示は受ける側に残ります。**これは準委任として素直に成立する
- 発注が「1名、うちのプロジェクトに入って」という形だと、**日々の指示は発注側から出ます。**契約書の表題が業務委託でも、実態は指揮命令が移っている
後者は、間に会社が入る場合、**労働者派遣ではなく労働者供給(職業安定法4条8項)に当たり得ます。**派遣は許可を取れば適法にできますが、供給は44条で禁止されていて、株式会社が後から適法化する道がありません。当社がこの実査をした経緯そのものは独立した人に仕事が渡るまでの、法律上の線引きに書きました。
つまり、「案件がたくさんある会社」と「当社が受けられる会社」は、まったく別の集合でした。
これは受ける側にとっても同じです。工程で切れない発注は、独立した人にとって「常駐の人手」としての発注になります。単価が上がりにくく、契約の型も曖昧になり、いわゆる偽装請負の議論に近づいていきます(偽装請負とは)。
規模・部門・タイミングの3条件
型の話を、当たる側から使える形に直します。発注が出る会社は、次の3つがそろっています。
条件1:規模 — 「外に出す慣行」が生まれる大きさか
小さすぎると外注しません。大きすぎると調達の仕組みが硬く、単価の枠が先に決まっています。
当社が第1波に置いたのは、元請または一次に入っていて、領域単位で外へ切り出す慣行がある層でした。規模の絶対値ではなく、**「工程を切り出した経験があるか」**が実質的な基準です。
見分け方は簡単で、その会社が過去に外部と組んだ案件の書き方を見ることです。「共同で」「パートナーとして」と書いてあれば工程で切っている可能性が高く、要員の派遣・常駐が前面に出ていれば、たぶん1名単位で買っています。
条件2:部門 — プロジェクト側から来るか、調達側から来るか
同じ会社でも、どの部門から話が来るかで案件の性質が変わります。
| 入口 | 起きやすいこと |
|---|---|
| プロジェクト側(現場の責任者) | 困っている工程が具体的。工程で切りやすい。単価の説明が通りやすい |
| 調達・協力会社窓口 | 到達しやすい。ただし1名単位の稼働提供の枠に入れられやすい |
ここは当社の資料でも、はっきり矛盾として書き残されている場所です。**協力会社の窓口があると到達はしやすい。ところが、その窓口はまさに常駐に寄る経路そのものでもある。**到達しやすさと、条件の崩れやすさが同じ場所にありました。
当社が決めたのは、窓口を使わないことではなく、初回の接触の時点で「工程単位で受ける」「進め方の指示はこちらに残る」を先に出すというルールです。出せない相手はその場で落とす。
**受ける側の実務にそのまま置き換えられます。調達窓口から声がかかったときに、最初のやりとりで「どの工程を、どこまで、誰の判断で進めるのか」を聞く。**ここで具体的な答えが返ってこない案件は、後で必ず揉めます。
条件3:タイミング — 工程が立っている時期か
需要は年中あるわけではありません。工程が立ち上がる時期にだけ、外に出ます。
- システムの移行や刷新の、設計から移行の工程が動いている時期
- 決算の早期化・連結の導入など、期限が外から決まっている取り組みが始まった時期
- 内部の要員が、別の案件に取られている時期
逆に、運用が安定している時期の会社に当たっても、話は前に進みません。当社が第1波・第2波・第3波と順番を分けたのも、突き詰めればここです。当たる順番は、相手の魅力ではなく相手の工程が立っているかどうかで決まります。
当社が「当たらない」と決めた層と、その理由
落とした理由を残しておくのは、次に同じ候補を拾い直さないためです。ここも開きます。
| 落とした層 | 理由 |
|---|---|
| 事業会社の直取引 | 需要の実体が「自社の指揮命令下に人を置くこと」。準委任が成立しにくい。加えて到達経路が無く、名前を並べても分母の水増しになるだけ |
| 人材サービスを本業とする会社 | 相手の需要が「人を出してほしい」になりやすく、進め方の指示をこちらに残せない |
| 要員を1名単位で流す商流(SES) | 同上。二重の商流に入ると、指示の所在がさらに残せない |
| 供給側と当たっている大手ファーム | 当社が別の用件で同じ会社に接触しており、利益相反の管理ができるまでは当たらない |
| 自社製品・インフラ・調達コンサルが主の中堅IT | 領域が噛み合わない。数だけ増やしても受注に繋がらない |
| サイトが取得できなかった9社 | HTTPで403または到達不能。実在と窓口を機械で確認できなかったので、推測では載せない |
最後の行が、この作業でいちばん地味に効いた判断でした。**確認できなかったものを「たぶんある」で埋めない。**埋めた瞬間に、リスト全体の信頼性が落ちます。
単価については、書けることがない
正直に書きます。当社の資料には、単価の実額が入っていません。
理由は、配置の実績が0件で、社内に金額の根拠が1つも無いからです。資料の単価欄には全セグメントで「未確定」と書いてあり、単価の向き(高いか低いか)だけが仮説として置いてあります。その仮説にも「実測なし」と明記してあります。
だから、この記事にも金額は書きません。書けば、根拠のない数字が独り歩きします。
相場そのものは、独立した人が実際に受けている額を複数聞くのが唯一まともな方法です。測り方はコンサル単価の相場に、発注側が払う額と自分が受け取る額の差がどこで生まれるかは発注側が払う金額と、自分が受け取る金額の差に、当社の台帳の考え方ごと書いてあります。
受ける側は、この3条件をどう使えるか
ここまでは発注を取りにいく側の話でした。受ける側に翻訳すると、こうなります。
- **自分の案件が、どの型から来ているかを把握する。**型が分かると、単価の天井と、常駐に寄るリスクが事前に読めます
- 最初のやりとりで「工程で切れるか」を確かめる。「どの工程を、どこまで、誰の判断で」の3点を聞く。答えが曖昧なら、条件は後で崩れます
- **調達窓口から来た話は、先に条件を出す。**到達しやすい経路ほど、枠にはめられやすい
- **相手の工程が立っている時期かどうかを見る。**立っていない時期に丁寧な提案をしても、時間だけが消えます
- **「案件が多い会社」と「自分が受けられる会社」を分けて考える。**当社の実査では、この2つの集合はかなりずれていました
そして、自分が売っているものを工程の言葉で言えるようにしておくことが、結局いちばん効きます。「PMOができます」ではなく「この工程の設計と進行を一式で受けられます」と言えるかどうか。前者は人手として買われ、後者は工程として買われます。この差はフリーランスのPMOは、何を売っているのかとスキルシートの書き方にも書きました。
まだ決まっていないこと
この資料は完成品ではありません。社内で決まっていないことが9件、そのまま残っています。
主なものだけ書くと、単価をどう決めるか(金額ではなく、何を根拠にするか)、準委任の実態を守る条項を契約のひな形に足すかどうか、そしてそもそも提案できる人が0名という前提の問題です。需要側を46社に広げても、出せる人がいなければ何も立ちません。
需要側だけ広げて満足するのが、この手の作業の最大の失敗だと資料にも書きました。ここは自戒として、そのまま残しておきます。
まとめ
- 当社は2026年8月12日、需要側を定義するために46社を実際に取得して判定した。初版は判定の誤りで社内監査に差し戻され、SAPの検出は31社→22社、ERPは30社→9社に落ちた
- 発注が出る会社は6つの型に分かれた。実装ベンダー/会計・経営管理/独立系SIer/変革PMOブティック/グローバルベンダー日本法人/事業会社の社内部門
- 決め手は規模でも知名度でもなく、**仕事を工程で切り出す習慣があるかどうか。**ここが無いと、実態が指揮命令の移転になり法律上の線を越える
- 単価がいちばん高いのは事業会社の直取引。**それでも当社は当面やらないと決めた。**準委任が成立しにくく、到達経路も無いため
- 3条件は規模(工程を切り出した経験があるか)・部門(プロジェクト側か調達窓口か)・タイミング(工程が立っている時期か)
- **調達窓口は到達しやすいが、1名単位の枠にはめられやすい。**当社は初回接触で条件を先に出すルールにした
- **単価の実額は書かない。**当社に配置実績が0件で、金額の根拠が社内に1つも無いため(資料上も全セグメント「未確定・実測なし」)
- 受ける側は、「案件が多い会社」と「自分が受けられる会社」を分けて考える。当社の実査では、この2つはかなりずれていた
需要がどこにあるかは、外から見ていると分かりません。私も、自分が発注する側に回るまで、この構造をまったく知りませんでした。
分かったのは、需要の大きさより、需要の形のほうが効くということです。工程で切れる形の需要は、多くはないが、独立した人の仕事として素直に成立する。切れない形の需要は、量はあるが、入ると条件が崩れていく。
選ぶべきは、大きいほうではなく、切れるほうでした。
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出典:本記事の型の分類、社数、検出回数、落とした理由は、当社が2026年8月12日に作成した社内資料「需要側ターゲット拡張セグメント定義」およびその判断ペーパー(いずれも当社内部文書)の記載に基づきます。サイトの取得はすべて2026年8月12日に実施したものです。単価に関する当社の記載は全セグメントで「未確定・実測なし」であり、本記事でも金額は開示していません。企業名は、いずれも当社が接触前の候補として扱っている段階のため記載していません。労働者供給に関する条文は職業安定法4条8項・44条・45条を参照しています。
※本記事は当社が自社について行った実査に基づく整理です。準委任か否か、指揮命令の所在、労働者供給への該当性の最終的な判断は弁護士によります。個別の事案については専門家にご確認ください。