退職日が決まったあとに調べると、「独立してやることリスト」はいくらでも出てきます。開業届、青色申告、国民健康保険、年金、口座、請求書、契約書、名刺。

困るのは、その先です。どれが先で、どれが後か。そして、どれに締切があるのか。

一覧は順番を教えてくれません。全部が同じ大きさで並んでいるので、いちばん急ぐものと、半年後でもいいものが、同じ顔で置かれている。私も退職した年、これで一度つまずきました。

だからこの記事は、リストではなく時系列で書きます。

最初の3か月でやることは、「外から締切が来るもの」と「自分で締切を決めるもの」の2種類しかない。前者は4つだけで、残りは全部後者。

前者を落とすと、お金か手続きで実害が出ます。後者は、落としても実害は出ないかわりに、着手が遅れたぶんがそのまま自分の空白期間になります。性質がまるで違うので、分けて扱います。

なお、辞めるにそろえるものはコンサルの独立準備は何からコンサルの独立は、何が揃えば踏み出せるのかに、個人として受ける形を一から作る場合の始め方の順番全体個人でコンサルを始めるにはに書きました。この記事は、退職日がもう決まっている人の、その日から先の3か月だけを扱います。

先に結論|外から締切が来るのは、4つだけ

3か月のあいだに、自分の都合と関係なく走る締切は次の4つです。

いつまで何をどこへ
退職日の翌日から14日以内国民健康保険の加入(任意継続を選ぶ場合を除く)住まいの市区町村の国民健康保険の窓口
退職日の翌日から14日以内国民年金(第1号被保険者)の資格取得・種別変更の届出住所地の市区役所または町村役場
退職後20日以内健康保険の任意継続を選ぶ場合の申請加入していた健康保険(協会けんぽの都道府県支部、または健康保険組合)
事業の開始から1か月以内/その年の1月16日以後の開業は開業から2か月以内開業届/青色申告承認申請書納税地の税務署

**この4つ以外に、外から来る締切はありません。**残りは全部、自分でカレンダーに置く話です。

逆に言えば、**最初の3週間はほぼ役所の話で埋まります。**ここを「事務」と侮って後ろに送ると、上の4つが3つくらい同時に危なくなる。私が見てきた範囲で、独立直後にいちばん多い事故はこれです。仕事を取れなかった事故ではなく、手続きを後回しにして、そのあいだ営業に手がつかなかったという事故です。

退職日〜14日|健康保険と年金は、同じ週に片づける

会社を辞めると、健康保険と厚生年金の資格は退職日の翌日に失われます。そこから先は、自分で入り直す側になります。

年金のほうは分かりやすくて、退職日の翌日から14日以内に、住所地の市区役所または町村役場で第1号被保険者への手続きをします。持っていくのは届書と、基礎年金番号が分かるもの(基礎年金番号通知書や年金手帳)またはマイナンバーが確認できる書類と身元確認書類、それに退職日が分かる書類です。

健康保険のほうは、国民健康保険に入るなら14日以内。同じ市区町村の窓口です。

つまり同じ役所の、隣の窓口で、同じ期限です。だから、別々の日に行く理由がありません。1日で2つ終わらせるのが、いちばん楽です。私は最初、年金と健康保険を別の用事だと思い込んでいて、2回行きました。ただの往復の無駄でした。

年金と健康保険それぞれの、独立後の負担の中身はフリーランスの年金フリーランスの国民健康保険に分けて書いています。

退職後20日|任意継続を選ぶなら、ここが分岐

健康保険には、もう一つの道があります。任意継続です。前の会社で入っていた健康保険を、退職後も続ける形で、退職までに継続して2か月以上の被保険者期間があれば、原則として退職後2年間続けられます。

ここが独立直後でいちばん見落とされる分岐です。理由は2つあります。

  1. **申請の期限が20日と短い。**しかも「退職後20日以内」なので、退職日を過ぎてから調べ始めると、もう半分終わっています
  2. **独立1年目は、国民健康保険のほうが高くなることがある。**国民健康保険の保険料は前年の所得で決まるので、会社員時代の給与がそのまま計算の土台になります

任意継続では会社が負担していた分も自分で払うので、保険料そのものは上がります。それでも、**前年の高い所得で計算された国民健康保険より安く収まることがある。**どちらが安いかは、住んでいる市区町村と、辞める前の給与で変わるので、一般論では決まりません。

やることは一つだけです。**退職する前に、両方の見積もりを取って、数字で比べる。**辞めてから比べようとすると、20日の期限のほうが先に来ます。比較の考え方はフリーランスの国民健康保険に書きました。

開業から1か月・2か月|届出は2枚。効くのは2枚目のほう

税務署に出す紙は2枚です。

  • 個人事業の開業・廃業等届出書(開業届)
  • 所得税の青色申告承認申請書

開業届の提出時期は、国税庁の手続案内では「事業の開始等の事実があった日から1月以内」とされています。ただし、同じ国税庁のタックスアンサーには「事業の開始等の事実があった日の属する年分の確定申告期限まで」という書き方もあり、**記載に幅があります。**どちらにしても遅れて罰則があるという性質の紙ではないので、実務上は「早く出しておけば済む」ものだと考えて差し支えありません。

**問題は2枚目です。**青色申告承認申請書は、その年の1月16日以後に新たに事業を開始した場合、事業開始の日から2か月以内。ここを落とすと、初年度は白色申告になり、青色申告特別控除を丸ごと落とします。取り返しがきかないのは、こちらだけです。

だから運用はひとつに決めています。**2枚同時に出す。**別々の日に出す理由がありません。書き方の各欄は開業届の書き方に、初年度の申告の流れは青色申告のやり方に分けてあります。

締切がないもの|自分でカレンダーに置く3つ

ここからは、遅れても誰にも怒られないかわりに、遅れたぶんだけ自分が損をするものです。3つあります。

1. 屋号名義の口座

開業届の控えがあると作れます。分ける目的は節税ではなく、確定申告のときの作業量を減らすことです。生活費と事業のお金が同じ口座を流れていると、1年後に1件ずつ仕分ける作業が待っています。事業用口座を分ける話に、分けなかった1年目の実際を書きました。屋号そのものの決め方はフリーランスの屋号の付け方に。

2. 請求書の様式を、空で1枚

案件が決まってから作ると必ず慌てます。屋号・住所・振込先・請求番号・件名・数量と単価・消費税・(登録していれば)インボイスの登録番号。**先に空の様式を1枚作っておくと、初回の請求が15分で終わります。**中身は請求書の書き方に。

3. 契約の型を、自分の言葉で言えるようにする

業務委託という言葉は契約類型の名前ではなく、中身は準委任請負のどちらかに寄ります。準委任は時間と労務の提供を約束し、請負は成果物の完成を約束する。契約書のタイトルが「業務委託契約書」でも、中の条文が請負になっていることがあります。違いは準委任と請負の違いに、契約書で見る順番は業務委託契約書のチェックの順番に書きました。

**この3つは、案件が決まってから用意すると必ず着手が遅れます。**私の場合、最初の話がまとまってから実際に稼働を始めるまでに、2週間近くかかりました。相手の購買部門から「支払先として登録するので、屋号・口座・インボイスの登録番号を送ってください」と言われて、そのどれも持っていなかったからです。相手は待ってくれます。ただ、その2週間は請求できません。

営業は、いつ始めるか

手続きの話ばかり書いてきたので、順番の話に戻します。

**営業は、退職日の翌週から始めます。**手続きが全部終わってから、ではありません。理由は単純で、手続きは1〜3週間で終わりますが、最初の1件が決まるまではそれより長いからです。並行しないと、そのぶんまるごと空白になります。

やることは、売り込みではありません。「独立した」という事実を、近況として伝えることです。前職の同僚、前の案件で一緒だった他社の人、発注側にいた担当者。まず30人ほど、頭の中で数えるのではなく名前で書き出します。

最初の1件がどこから来るのか、その動き方は独立コンサルの最初の1件は、どこから来るかに、案件が来る経路そのものの違いはフリーコンサルの案件は、どこから来ているのかに書きました。連絡するのが怖い、という感覚についてはフリーランスの営業が怖い人へに。

ひとつだけ、順番として先にやることがあります。在職中の競業避止義務と、顧客の引き抜きに当たらないかの確認です。これは感情ではなく契約の問題なので、連絡を始める前に済ませてください。競業避止義務に整理しました。

お金の時系列|3か月目まで、入金は来ないつもりで置く

ここは正直に書きます。稼働した月の報酬は、翌月には入りません。

段階かかる時間の目安
話がまとまる → 契約締結・支払先登録1〜2週間
稼働開始 → 当月末締め最大1か月
締め → 支払期日翌月末が一般的。それより長い条件もある

退職した月に話がまとまっても、**最初の入金は3か月目に入ってからということが普通にあります。**独立直後にここで詰まる人がいちばん多い。手元にいくら置いておくべきかは独立に必要な貯金はいくらかに書きました。

もう一つ、独立1年目に効いてくるのが住民税です。住民税は前年の所得に対してかかるので、**収入が下がった年に、会社員時代の所得で計算された金額が来ます。**しかも会社が毎月の給与から引いてくれていたものが、自分で納める形に変わる。金額の大きさより、来るタイミングを知らないことのほうが事故になります。フリーランスの住民税に、前年課税の仕組みと備え方を書きました。

3か月を、カレンダーに置くと

時期やること
退職日まで任意継続と国民健康保険、どちらが安いか見積もりを取って比べる。競業避止義務を確認する
退職日の翌週役所へ1回。国民健康保険(または任意継続の申請)と国民年金の届出を同じ日に済ませる
退職日の翌週開業届と青色申告承認申請書を、税務署に2枚同時に出す
1〜2週目声をかける相手を30人書き出し、上から順に近況を伝え始める
2〜4週目屋号名義の口座を開く。請求書の様式を1枚作る
1〜2か月目契約の型(準委任/請負)と、契約書で見る場所を自分の言葉で言えるようにする
1〜3か月目案件の話を進める。決まったら支払先登録に必要なもの(屋号・口座・登録番号)をすぐ出せる状態にしておく
随時インボイス登録の要否を、実際の取引相手を見て判断する

**外から締切が来るのは、上から3行目までです。**それ以外は、全部こちらで決めた締切です。

3か月やってみて、効いていたこと・要らなかったこと

効いたのは、役所を1日で終わらせたことでした。手続きが残っていると、そちらが頭の片隅に居座って、営業の連絡が後ろに送られていく。手続きは、能力ではなく段取りで片づく種類の仕事なので、まとめて潰すのが結局いちばん早い。

**要らなかったのは、ホームページと名刺です。**最初の1件は検索から来ませんでした。作るなら実績が数件たまってからのほうが、書ける中身があります。凝った意匠の名刺も、相手が見ているのは屋号ではなく、何をやった人かでした。

**法人も、この3か月では要りません。**個人で始めて、所得と消費税と信用のサインが出てから考える話です。判断の順番はフリーランスの法人化に書きました。

そして、この3か月で私がいちばん時間を使ってしまったのは、**手続きでも営業でもなく、「まだ何も始まっていない」という感覚に耐えることでした。**辞めた直後は、やることリストが減っても、案件が動いていないと何も進んでいないように見える。ここで焦って値段を下げると、その値段が自分の基準値になって、あとで戻せなくなります。値付けの考え方は独立コンサルの単価の決め方に書きました。

まとめ

  • 最初の3か月でやることは、外から締切が来るもの4つと、自分で締切を決めるものの2種類に分かれる
  • 外から来るのは、国民健康保険と国民年金の14日/任意継続の20日/開業届の1か月/青色申告承認申請書の2か月だけ
  • **健康保険と年金は同じ役所の隣の窓口で、同じ期限。**1日で終わらせる
  • **任意継続を選ぶかどうかは、退職前に見積もりを取って比べる。**辞めてからでは20日が先に来る
  • 税務署の2枚は同時に出す。取り返しがきかないのは青色申告承認申請書のほう
  • 締切がないのは、口座・請求書の様式・契約の型の3つ。決まってから用意すると、その分が空白になる
  • **営業は退職日の翌週から。**手続きの完了を待たない
  • **最初の入金は3か月目に入ってからということがある。**住民税は前年の所得で来る
  • ホームページ・名刺・法人は、この3か月には要らない

やることの一覧を見て途方に暮れるのは、全部が同じ大きさで並んでいるからです。締切があるものは4つしかなく、そのうち3つは最初の3週間で終わります。残りは、こちらが順番を決めていい。

退職日が決まっている方は、30秒の独立準備度チェックで、いま何が空いているかを先に見ておくのも手です。登録は要りません。

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出典:国民健康保険の届出期限(14日以内)と届出先は厚生労働省「国民健康保険の加入・脱退について」、国民年金第1号被保険者の届出期限(退職日の翌日から14日以内)・届出先・必要書類は日本年金機構「国民年金に加入するための手続き」、健康保険の任意継続(退職後20日以内・原則2年・退職までに継続して2か月以上の被保険者期間)は厚生労働省 大阪労働局の解説、青色申告承認申請書の期限(その年の1月16日以後の開業は事業開始の日から2か月以内)は国税庁「A1-8 所得税の青色申告承認申請手続」、開業届の提出時期は国税庁「A1-5 個人事業の開業届出・廃業届出等手続」(事業の開始等の事実があった日から1月以内)と同「No.2090 新たに事業を始めたときの届出など」(その事実があった日の属する年分の確定申告期限まで)を、いずれも2026年8月29日に確認しました。開業届の期限は、この2つの公表資料で書き方が異なるため、記事本文でもそのまま両方を示しています。着手・入金までの日数の目安は当社および当社が関与した取引での観測であり、統計調査ではありません。

※本記事は当社の実務経験と社内記録に基づく整理です。社会保険・税務の手続きと法令の適用は、住んでいる市区町村や加入していた健康保険、個別の事情で結論が変わります。実際の判断は市区町村の窓口・年金事務所・税務署、および加入先の健康保険と公的機関の公表資料でご確認ください。