独立して1年が過ぎたころ、私は「もう大丈夫だろう」と思っていました。案件は続いている。請求も入金も回っている。1年目に怖かったことは、だいたい起きなかった。

その感覚は、半分だけ当たっていました。**1年目の怖さは去るのに、2年目の怖さは、別の顔をして来ます。**しかも2年目のそれは、1年目のように「何も起きない」形では来ません。請求書という形で、更新面談という形で、はっきり日付を持って来ます。

この記事は、独立して6年たった立場から、2年目に何が変わり、どこで落ちるかを並べたものです。1年目の入口の話は独立直後の3か月に、辞める前の準備はコンサルの独立は、何が揃えば踏み出せるのかに分けて書きました。ここは、その先の1年です。

先に結論|1年目は「始まるか」、2年目は「続くか」

1年目に自分へ問うていたのは、こうでした。

案件は取れるのか。入金は来るのか。会社員に戻らずに済むのか。

2年目に問いが変わります。

この単価のまま、あと何年やるのか。この1社が終わったら、次はどこから来るのか。去年と同じことを、今年もやるのか。

**1年目は成立の問題で、2年目は継続の問題です。**成立は一度クリアすれば終わりますが、継続は毎年更新されます。だから2年目の課題は、3年目にも4年目にも同じ形で戻ってきます。ここで型を作れた人は、以降が楽になる。作らなかった人は、毎年同じ場所でつまずきます。

変わるのは、次の4か所です。

1年目2年目
お金入ってくるかを心配する稼いだ年の翌年に、まとめて出ていく
契約初回。取れるかどうか更新。据え置くか、動かすか
売り物前職の実績で売る独立後の実績で売る
時間空いている。焦る埋まっている。動けない

順に見ていきます。

変わること①|お金は、稼いだ年の翌年に出ていく

2年目にいちばん最初に来る変化は、支出のカレンダーです。

独立1年目は、会社員時代の所得に対する請求が来ます。住民税も国民健康保険料も、前年の所得をもとに決まるからです。辞めた年の所得は会社員としての給与で、それはそれで重いのですが、**額が読めます。**去年の給与明細を見れば分かるからです。

2年目は違います。ここで初めて、独立して自分で稼いだ1年ぶんの請求が来ます。

  • 6月住民税の通知書。独立1年目の所得に対するものが、ここから始まる
  • 同じころ国民健康保険料の決定通知。これも前年所得がもとになる
  • 7月と11月予定納税。予定納税基準額が15万円以上になると、その3分の1ずつを2回、7月と11月に前払いする(国税庁タックスアンサーNo.2040)

つまり2年目は、1年目に稼いだぶんの請求が、6月・7月・11月に集中して届く年です。しかも予定納税は「前払い」なので、稼いだ実感のあるお金ではなく、今年の資金から出ていきます。

私が2年目に感じたのは、金額の重さよりも時間差の気持ち悪さでした。去年の自分の成果に対して、今年の自分が払う。売上が去年より落ちている月に、去年の水準で計算された額が来る。この構造を知らないまま2年目に入ると、資金繰りが読めなくなります。

対策は単純で、入金のたびに一定割合を別口座に寄せておくことに尽きます。私は独立2年目からこれを始めました。1年目から始めておけばよかった、というのが正直なところです。予定納税の減額申請という手も残っていますが、それは事後の対処であって、設計ではありません。

なお消費税は、判定のもとになる基準期間が2年前なので、効いてくるのは原則3年目です。ただしインボイスの登録をしていれば1年目から課税事業者なので、自分がどちらの側にいるかだけは確かめておいてください。ここは税務の領域なので、深追いはそれぞれの記事に譲ります。

変わること②|契約が「初回」から「更新」に変わる

1年目の契約は、全部が初回です。取れるかどうかがすべてで、金額はその次でした。

2年目の契約は、更新になります。そしてここに、独立してから初めて出会う力が働きます。

更新には、現状維持の引力があります。

初回の契約は、何も決まっていない状態から金額を決めます。だから交渉が成立します。更新は違う。すでに動いている単価があり、すでに回っている稼働がある。誰も困っていない。この状態で金額の話を切り出すのは、初回よりずっと難しい。

私が見てきた範囲でも、独立2年目に単価を動かせた人と、3年据え置いた人の分かれ目は、能力ではありませんでした。更新のどれくらい前に、何を根拠に言い出したかの差でした。

  • 更新月の直前に言う — ほぼ通りません。相手の予算はもう固まっています
  • 更新月の2〜3か月前に言う — 検討に乗ります。予算の組み替えが間に合う
  • 前回の更新のときに、次回の条件を予告しておく — いちばん揉めません

契約期間そのものの設計は業務委託の契約期間は3か月か6か月かに、切り出し方は単価交渉のしかたコンサル単価の上げ方に書きました。2年目にやることは、この3本を読むことではなく、更新月をカレンダーに書き込んで、その3か月前に印を付けることです。

逆に、更新されないと分かる場面も2年目から増えます。1年目は案件が始まったばかりなので終わりが見えない。2年目は、終わりが見える回数が増えます。そのときの動き方は更新されないと分かった月にやることに分けました。

変わること③|売り物の出どころが、前職から自分の案件に移る

これは静かに効きます。

独立1年目の営業で使えるのは、ほとんどが前職の実績です。どのプロジェクトで何をやったか、どの規模の会社で何を回したか。独立したばかりの人に、独立後の実績はありません。だから前職の看板を使う。それでいい。

問題は、その看板に賞味期限があることです。

2年目、3年目と進むにつれて、相手が知りたいのは「前職で何をしたか」ではなく「独立してから、誰に、何を、いくらで提供したか」に移ります。ところが1年目に1社で埋まっていた人は、独立後の実績が「1社で1年」しかありません。話せる幅が、去年と同じままなのです。

ここは会社の独立支援制度を使った人にとくに起きやすい形です。前職からの業務委託で1年目が埋まると、独立後の実績が前職の続きになる。実績としては本物なのに、外から見ると「まだ前職の人」に見えてしまう

やることは1つです。**独立後の案件を、外向きの言葉に翻訳して1本ずつ置いていく。**固有名を出さずに、自分の判断が入っていた場所を書く。書き方そのものは辞める前に社内で取っておく実績に整理しましたが、あれは在職中の話であって、原理は独立後も同じです。案件が終わった月に、10分で1本書く。それだけで、2年目の終わりには話せる実績が数本増えています。

変わること④|空いていた時間が埋まり、単価が動かなくなる

1年目は、時間が空いていました。空いていることが怖かった。だから埋めました。

2年目、時間は埋まっています。そして埋まっていることが、次の問題を作ります。

稼働が満杯だと、単価を上げる交渉ができません。相手に断られたときの行き先がないからです。単価を動かせる人は、交渉がうまい人ではなく、断られても困らない状態を先に作っている人です。ここは稼働率を100%にしてはいけないに別で書きました。

2年目に埋まりすぎる理由は、たいてい1年目の恐怖の残りです。空白が怖かった記憶があるので、来た話を全部受ける。受けるので埋まる。埋まるので選べない。選べないので単価が動かない。**1年目の正しい判断が、2年目には間違った判断になる。**この切り替えが、2年目でいちばん難しいところでした。

稼働が空く側の設計は稼働が空く3つのパターンに、終わりが見えた案件の扱いは案件が終わる1か月前に何を始めるかに分けています。

どこで落ちるか|2年目に多い3つ

ここまでが「変わること」です。落ちるのは、変化そのものではなく、1年目のやり方をそのまま2年目に持ち込んだときでした。私が見てきた範囲で多いのは、次の3つです。

落ちる場所①|取引先が1社のまま、2年目に入る

1年目に1社で埋まったこと自体は、悪いことではありません。むしろ幸運です。

問題は、その1社が終わる日が、2年目のどこかにあることです。1年目に営業をしていないので、次の探し方が分からない。分からないまま探すと、時間がかかる。時間がかかるあいだ、収入はゼロです。

そして最悪なのは、焦って安く受けることです。**一度下げた単価は、同じ相手にはまず戻せません。**この構造は単価の減額を打診されたときにも書きました。

2年目にやることは、2社目を作ることの一点です。金額は小さくていい。稼働も小さくていい。「前の1社以外からも受注できた」という事実が1件あるだけで、更新の面談で言えることが変わります。取りにいく動き方は独立コンサルが案件を取るにはに整理しました。

落ちる場所②|単価を一度も動かさないまま、更新を重ねる

2年目に単価を動かさなかった人は、3年目にも動かしません。理由は同じで、動かさない理由が毎年そろうからです。

  • 今は忙しいので、揉めたくない
  • 相手も予算が厳しいと言っている
  • そもそも今の額に不満があるわけではない

どれも正しい。正しいのですが、据え置きは、毎年少しずつ実質的に下がるということでもあります。同じ額で、経験は1年ぶん増えているからです。

私の実感では、単価は「上げたくなったとき」に上がるものではありません。上げる根拠が手元にあるときに、上げるものです。根拠は、担当範囲が広がったこと、任される判断が増えたこと、成果が数字で言えること。2年目は、その根拠が初めてそろう年でもあります。

落ちる場所③|1年目の型を、検証しないまま繰り返す

いちばん見えにくい落ち方です。

1年目は、全部が初めてでした。だから、**うまくいったのか、たまたまだったのかを判別できません。**単価の付け方、案件の選び方、断り方、稼働の入れ方。全部が一度きりのサンプルです。

2年目は、その型を2回目として使う年です。ここで一度も振り返らずに繰り返すと、たまたまうまくいったことを、実力だと思い込んだまま3年目に入ります。逆に、たまたま失敗したことを「自分には向いていない」と結論づけてしまうこともある。

私がやっておいてよかったのは、四半期に一度、案件ごとに「受けてよかったか」を一言で書くことでした。分析ではなく、一言です。半年ぶん並べると、自分がどういう案件で消耗しているかが、驚くほどはっきり見えます。

2年目を、月の順番に置くと

書いてきたことを、カレンダーの形にすると次のようになります。人によって独立月が違うので、税金の月は暦どおり、契約の月は自分の更新月から逆算して読んでください。

時期起きること先にやっておくこと
2〜3月独立して初めての確定申告ここで出た所得税額が、7月からの予定納税の基準になる
6月住民税・国民健康保険料の通知前年所得ベース。金額を見る前に、払う原資を分けておく
7月・11月予定納税(対象なら)資金繰り表に、この2か月を先に赤で置く
更新月の3か月前まだ何も起きない単価を動かすなら、ここが唯一の窓
更新月契約の更新/不更新据え置くと決めるなら、それも決定として書き残す
四半期ごと何も起きない案件を一言で振り返る。2社目の進み具合を確認する

予定を書いていない月に、いちばん大事なことがあるのが2年目の特徴です。6月と7月の請求は勝手に来ますが、更新の3か月前と四半期の振り返りは、自分で置かないと来ません。

2年目に、やらなくてよかったこと

最後に、逆側も書いておきます。私が2年目にやって、効かなかったことです。

  • **売上目標を年で立てる。**案件の単位が四半期や半年なので、年の目標は途中で意味を失いました。四半期のほうが手が動きます
  • **単価を上げるための資格。**取ること自体は悪くありませんが、2年目の単価を動かしたのは資格ではなく、任された範囲の広がりでした
  • **交流会を増やす。**1年目に効かなかったものは、2年目にも効きませんでした。効いたのは、一度一緒に働いた人との関係のほうです

そして、これは効かなかったのではなく気づくのが遅れたことですが、2年目は一人で決める量がいちばん増える年です。1年目は目の前のことに追われていて、考える余裕がなかった。2年目は余裕ができるぶん、迷いが出ます。その扱い方はフリーランスの孤独に別で書きました。

まとめ

  • **1年目は「始まるか」、2年目は「続くか」の年。**成立は一度で終わるが、継続は毎年更新される
  • 変わるのは4か所。お金の出る順番/契約が更新になること/売り物の出どころ/時間の埋まり方
  • お金は**6月(住民税・国保)・7月・11月(予定納税)**に、1年目に稼いだぶんの請求が集中する。予定納税基準額が15万円以上なら、その3分の1ずつを年2回前払い
  • 契約は更新になり、**現状維持の引力が働く。**動かすなら更新月の2〜3か月前が唯一の窓
  • 売り物は前職の実績から独立後の実績へ移る。案件が終わった月に、外向きの言葉で1本ずつ書き残す
  • 時間は埋まる。埋まりすぎると単価が動かなくなる
  • 落ちるのは3か所。1社のまま2年目に入る/単価を一度も動かさない/1年目の型を検証しないまま繰り返す
  • 6月と7月の請求は勝手に来るが、更新の3か月前と四半期の振り返りは、自分で置かないと来ない

2年目は、劇的なことが起きる年ではありません。去年と同じことをしていると、去年と同じ場所に立ったまま1年が終わる。それだけです。だからこそ、変わるものを先に知っておくと、置く場所が分かります。

税額や保険料の実際の計算は、所得や自治体、契約の形で変わります。金額の見通しを立てるときは、税理士に一度確認してください。

参考:国税庁タックスアンサーNo.2040「予定納税」(予定納税基準額15万円以上/第1期分7月1日〜7月31日・第2期分11月1日〜11月30日・それぞれ予定納税基準額の3分の1)

出典:本記事の「2年目に変わる4か所」「落ちる3か所」は、筆者が独立後6年のあいだに自分と周囲で見てきた事例からの整理であり、統計調査ではありません。税・保険料の制度部分のみ、国税庁および各制度の一次情報に拠っています。