「コンサルに転職したいんですが、どこがいいですか」
この相談を受けて、いくつか質問していくと、5回に3回くらいは本当の目的が別のところにあります。いずれ独立したい。コンサルへの転職は、その途中にある踏み台として考えられている。
だとすれば、問いを立て直したほうが早い。「何年いれば独立できるか」ではなく、独立したあとに効く経験は、どこにあるのかです。
私は新卒で大手のコンサルティングファームに入り、別のファームを経て独立しました。6年やってから振り返ると、効いた経験と、まったく効かなかった経験がはっきり分かれています。しかもその分かれ目は、在籍年数ではありませんでした。
「3年」という数字に、根拠はあるのか
コンサルの世界では「まず3年」と言われます。この数字自体には、私はあまり意味がないと思っています。
ただ、3年が語られる理由は分かります。プロジェクトを最初から最後まで通すのに、それくらいかかるからです。
大きめの導入プロジェクトだと、構想に半年、設計に半年、開発とテストで1年、本稼働してから安定するまで半年。運悪く途中のフェーズだけを2年やると、始まりと終わりを見ないまま3年が経ちます。
独立して困るのはここです。案件の入口では「何ができるか」ではなく「何を最後まで通したか」を聞かれます。途中のフェーズだけを担当した経験は、説明が難しい。
つまり年数ではなく、通した回数です。1回通していれば1年半でも語れるし、通していなければ5年でも語りにくい。
独立に効いた経験、4つ
私の場合、独立してから毎月のように使っている経験は4つでした。
**1. 見積と契約の側に触れたこと。**これが最大です。
会社員のときの私は、自分の工数が社外にいくらで請求されているかを知りませんでした。知ったのはマネージャーになってからです。**役割ごとの単価があり、工数を掛けて見積が組まれ、そこから値引きの交渉が入る。**この構造を知っているかどうかで、独立後の値付けがまったく変わります。
知らずに独立すると、値付けの根拠が「自分の会社員時代の年収」になる。相手にとっては何の理由にもなりません。単価の決め方に書いたとおり、値段は自分の事情ではなく相手にとっての代替コストで決まります。
**2. 提案が落ちた経験。**通った提案より、落ちた提案のほうが役に立ちました。
落ちる理由はだいたい3つで、「予算が合わない」「体制が薄く見える」「そもそも社内で優先順位が低い」。このうち3つ目は提案の質と無関係です。これを知っていると、独立後に断られたときに自分の実力の話だと思い込まずに済みます。
**3. 1つの業務領域を、最後まで自分で持ったこと。**私の場合は会計、SAPでいうFIモジュールでした。
途中まで担当した領域は、独立後に使えていません。**「決算が締まるところまで見た」領域だけが、案件になっています。**業務が回りきるまでを知っている人は少なく、そこが代替の効かなさになります(SAP FIの仕事内容)。
**4. クライアントの意思決定の場に座ったこと。**役員会や検討会に、資料を作る側ではなく説明する側で入った経験です。
**決める人が何を気にして、どこで判断を止めるか。**これは資料を作っているだけでは見えません。独立後は、この場に一人で入ることになります。座ったことがあるかどうかの差は、初回の打合せで出ます。
効かなかった経験、3つ
逆に、社内では評価されていたのに独立後まったく使えなかったものもあります。
**1. 大規模プロジェクトの、切り出された作業。**200人が動くプロジェクトで自分に割り当てられた範囲は、独立後に単体では売れませんでした。分業された部分は、その体制の中でしか意味を持たないからです。
**2. 社内向け資料の速さ。**週次報告、稼働報告、内部レビュー用の資料。社内では速さが評価されましたが、独立すると社内がありません。この作業そのものが消えます。
**3. 会社の看板で通った打合せ。**アポが取れるのも、話を最後まで聞いてもらえるのも、社名の効果が相当ありました。独立した最初の年、同じ資料を持っていって反応が違ったときに、はっきり分かりました。
**看板の効果は、個人には引き継げません。**逆に言えば、看板がなくても通った経験だけが、独立後の資産です。在籍中に「自分の名前で頼まれた仕事」がどれだけあるかを数えてみると、実力の見積もりが少し正確になります。
だから、逆算すると「入る時期」より「入り方」
以上を整理すると、独立までの距離を決めているのは在籍年数ではなく、役割の取り方でした。
| 入り方 | 独立までの距離 | 理由 |
|---|---|---|
| 大規模PJの1フェーズを担当 | 遠い | 通した経験にならず、分業部分は単体で売れない |
| 中規模PJを構想から稼働まで通す | 近い | 1回でも通せば説明できる。年数は問われない |
| 提案・見積の側に入る | 近い | 値付けの構造が分かる。独立後の毎月に効く |
| 保守・運用に長く入る | 中間 | 業務は深く分かるが、通した経験になりにくい |
だから転職の面接で確認すべきは、待遇や評価制度の前に**「入った人が、どのくらいの規模の案件を、どの範囲で担当しているか」**です。
正直に書くと、これは求人票からは読めません。その会社にいる人か、辞めた人に聞くしかない。面接の逆質問を1つ使う価値がある項目です。
ファーム選びは、独立を先に置くと基準が変わる
同じ理由で、規模別の見え方も変わります。
| 種類 | 得やすいもの | 得にくいもの |
|---|---|---|
| 大手総合ファーム | 大規模案件の作法、体制の組み方、看板 | 通した経験(分業されるため) |
| 戦略ファーム | 意思決定の場、論点の立て方 | 実装まで見届ける経験 |
| 中小・専門ファーム | 通した経験、提案・見積への近さ | 大規模案件の作法、看板 |
| 事業会社の情シス・経理 | 業務が回りきる現場、発注する側の視点 | 案件の値付け、提案の経験 |
独立を前提にすると、中小・専門ファームの評価が上がります。一人が持つ範囲が広く、提案にも見積にも入りやすいからです。
一方で、大手を経由する価値がないわけではありません。看板は独立後に引き継げませんが、大手の作法を知っていること自体は引き継げます。大手のクライアントに一人で入っても、進め方の前提がずれない。これは実際に効きます。
私自身は大手を2社経由しました。もう一度やり直せるとしたら、大手で3〜4年、その後に専門ファームか事業会社側で通した経験を取りに行く、という順番にすると思います。**看板を先に、通した経験を後に。**逆順だと看板を取りに戻るのが難しくなります。
入社前に確認しておく契約条項が、2つある
独立を先に置くなら、入社時の契約で見ておくべき条項があります。転職のときは待遇に目が行きますが、辞めるときに効くのはこちらです。
**1つ目は競業避止義務。**退職後に同業で働くことを制限する条項です。
前提として、憲法第22条1項があります。
何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
**職業選択の自由が原則です。**だから退職後の競業避止条項は、書いてあれば何でも有効というものではありません。制限の期間、対象となる職種や地域の範囲、守るべき企業の利益があるか、代償措置(手当など)があるか。こうした要素で有効性が判断されます。
とはいえ、**有効かどうかを争うのは独立直後にやりたいことではありません。**入社時に範囲を読んでおいて、独立の際にはその範囲を避けて最初の案件を取る。これが現実的です。詳しくは競業避止義務に分けました。
**2つ目は副業の可否。**独立前に小さく始めておけるかどうかが、ここで決まります。
副業ができれば、辞める前に1本目の案件の感触を掴めます。逆に全面禁止なら、辞めてから始めるしかない。準備金の必要額が変わります(副業禁止は違法か/コンサルの副業)。
**この2つは、入社時に読めば5分で終わります。**辞めるときに初めて読むと、選択肢がすでに減っています。
年齢の話を、少しだけ
「何歳まで間に合うか」もよく聞かれます。
未経験からコンサルに入る場合、年齢が上がるほど求められる前提は変わります。ただし変わり方は「難しくなる」ではなく、**「実務の経験を持ってくる前提になる」**です。
経理を10年やってきた人がSAPの会計領域に入るのは、20代の未経験者より通りやすい場面があります。業務が分かっている人は、教える範囲が製品側だけで済むからです。私が独立後に仕事を頼む場合も、この観点で見ています。
このあたりは未経験からSAPコンサルへ、経理からSAPへの転身、40代の経理転職に、それぞれ別の角度で書きました。
明日からやれること
**1. 自分が「最後まで通した」案件を数える。**構想から稼働・運用まで見たものだけを数えてください。ゼロなら、次の異動や転職はそこを取りに行く。
**2. 自分の工数がいくらで請求されているかを聞く。**上司に聞けば教えてくれることがあります。分からなければ、提案書のフォーマットを一度見せてもらう。
**3. 会社の看板なしで頼まれた仕事を数える。**個人指名で来た依頼が、直近3年で何件あったか。独立後の初年度は、だいたいこの数に比例します。
**4. 雇用契約書の競業避止と副業の条項を、いま読む。**入社済みでも、いま読めば辞めるときの設計ができます。
**5. 面接では「入った人が担当している範囲」を聞く。**待遇より、こちらのほうが独立までの距離を決めます。
まとめ
- コンサルへの転職を「独立の踏み台」として考えるなら、問いは年数ではなく、どの経験が取れるか。
- 「3年」に根拠があるとすれば、プロジェクトを1回通すのにそれくらいかかるという点だけ。年数ではなく通した回数が効く。
- 独立に効いた経験は4つ。見積と契約に触れる/提案が落ちる/1領域を最後まで持つ/意思決定の場に座る。
- 効かなかった経験は3つ。分業された作業/社内資料の速さ/看板で通った打合せ。看板は個人に引き継げない。
- ファーム選びは、独立を前提にすると中小・専門ファームの評価が上がる。大手は「作法」が引き継げるので、看板を先・通した経験を後の順番が組みやすい。
- 入社時に読むべき条項は競業避止義務と副業の可否。憲法22条1項の職業選択の自由が原則で、退職後の競業避止は範囲・期間・代償措置などから有効性が判断される。争うより、範囲を避けて設計するほうが早い。
- 未経験入社は年齢が上がるほど実務経験を持ち込む前提になる。業務が分かっている人は、教える範囲が製品側だけで済む。
コンサルへの転職は、独立から見ると「経験を買いに行く」行為です。何年いたかは、買った内容を説明してくれません。
辞めるときに手元に何が残っているかを先に決めてから、入る場所を選ぶ。順番はそれだけです。
関連記事:独立のタイミング/コンサル独立の準備/単価の決め方/競業避止義務/副業禁止は違法か/コンサルの副業/未経験からSAPコンサルへ/経理からSAPへの転身/40代の経理転職/SAP FIの仕事内容
参考:日本国憲法第22条(e-Gov法令検索)/労働基準法(同)/経済産業省「秘密情報の保護ハンドブック」
※本記事は条文と公表資料、および筆者自身の実務経験に基づく整理です。競業避止義務の有効性は個別の契約文言と事情によって判断が分かれるため、実際の対応は弁護士にご確認ください。