コンサルの求人票を、私は二度、別の立場で読みました。

一度目は応募する側として。新卒でアビームコンサルティングに入る前も、アクセンチュアに移る前も、何十枚と読みました。二度目は出す側として。独立してNever Red株式会社を作り、自分の会社で人を採ろうとしたときです。

出す側に回って、いちばん最初に分かったことを先に書きます。

求人票には、事実がそのまま載っている欄と、人事と現場が何度も書き直した文章の欄が、混ざったまま並んでいる。

この二つを分けずに読むから、「求人票を何十枚読んでも現場が見えない」ということが起きます。編集された文章のほうを一生懸命読み込んでも、そこには編集の結果しか書いていないからです。

この記事では、事実に近い欄から稼働を逆算する読み方を書きます。求人票を疑えという話ではありません。書きたくても書けないことがある、という前提で読めば、同じ紙から取れる情報の量が変わる、という話です。

求人票には、性質の違う二種類の欄が並んでいる

まず分類しておきます。ここを分けるだけで、読む順番が変わります。

性質読み方
契約形態・勤務地・給与レンジほぼ事実。あとで労働条件通知書と突き合わされるここから逆算する
みなし残業・裁量労働の有無と時間事実。制度として登録されている標準的な稼働の目安になる
必須要件・歓迎要件現場が書く。かなり本音が出る会社の穴が見える
募集背景・組織構成半分事実、半分編集増員か欠員かで意味が変わる
仕事内容・一日の流れ編集が入る。理想の姿が混ざる単独では信用しない
求める人物像・やりがいほぼ全部編集。採用広報の文章翻訳して読む

応募する側は、下に行くほど熱心に読みます。人物像に自分が当てはまるかを確かめたいからです。でも現場の実際が漏れているのは、上の3行のほうです。

なぜかというと、上の3行は後から契約書と突き合わされる欄だからです。書いたことと違えば、入社後に問題になる。だから盛りようがない。逆に「やりがい」の欄は、誰とも突き合わされません。

稼働の実際は、事実に近い5か所から逆算できる

順番に見ていきます。どれも求人票に書いてあることだけを使います。

1. 勤務地の書き方

コンサルの求人票で、勤務地の欄はいちばん情報量が多い場所です。

  • 「本社(〇〇)」だけ ── 社内で完結する仕事の比率が高い。研究職・社内DX・内部管理など
  • 「本社およびプロジェクト先」 ── 客先に出る前提。頻度は書いていない
  • 「プロジェクトにより首都圏の客先」 ── 常駐が標準
  • 「リモート中心(プロジェクトによる)」 ── リモートの可否をプロジェクトが決める。つまり自分では決められない

最後の書き方が、いちばん誤解されます。「リモート中心」と書いてあるのに常駐が続く、という話はここから来ます。主語が自分ではなくプロジェクトになっているときは、配属で決まると読むのが正しい。リモートで受けられるかどうかの構造そのものは、フルリモートのコンサル案件は本当にあるかに分けて書きました。

2. 給与レンジの幅

「500万円〜1,200万円」のような広いレンジは、等級が複数またがっているということです。求人票のレンジは、その募集で受け入れる等級の下限と上限をつないだものだからです。

見るべきは幅そのものではなく、幅と必須要件の関係です。

  • 必須要件が薄いのにレンジが広い ── 下の等級で入る人が多い募集。入社時は下限寄りと考えるのが自然
  • 必須要件が厚くてレンジが狭い ── 入る位置がほぼ決まっている募集。交渉の余地は小さいが、読み違いも起きにくい

給与の交渉が最も動くのは入社時、というのは転職の側の話です。独立してからの値付けは別の理屈で動くので、そちらは独立コンサルの単価相場に書いています。

3. みなし残業・裁量労働の時間

ここは制度として登録されている数字なので、盛れません。みなし残業の時間数は、その会社が「これくらいは働く」と設計している時間です。

裁量労働制の場合は時間そのものが書かれないことがありますが、そのときは対象業務の範囲を見ます。企画業務型か専門業務型かで、想定されている働き方が違います。

コンサルの現場がどうきついのかは、時間の長さだけでは説明しきれません。何が消耗するのかはコンサルはきついのかのほうに、正直に書きました。

4. 募集背景

「増員」と「欠員補充」は、入ってからの立ち上がりが違います。

募集背景の書き方読めること
事業拡大に伴う増員立ち上げに近い。役割が固まっていない可能性が高い
組織強化のため増員だが既存チームがある。先輩がいる
欠員に伴う募集前任の穴。役割は決まっているが、引き継ぎの状態に左右される
記載なし書けない事情があるか、単に定型文か。面接で聞く

増員が良くて欠員が悪い、ということではありません。役割が決まっている仕事のほうが早く成果が出る人と、決まっていない場所で自分の役割を作れる人は別です。独立を考えているなら、後者の経験のほうが後で効きます。

5. 選考フローの回数

選考が4回、5回とある会社は、意思決定に関わる人が多い会社です。入ってからの合意形成も、だいたい同じ人数を通ります。

逆に2回で終わる会社は速い。ただし速い会社は、判断が個人に紐づいていることも多い。どちらが良いかではなく、入ってからの動き方が違うという情報として読みます。

必須要件と歓迎要件の境目に、その会社の穴がある

現場が書く欄なので、ここは本音が出ます。読み方は一つです。

歓迎要件に書いてあることは、いま社内で足りていないこと。

必須要件は「これがないと仕事にならない」の線です。歓迎要件は「あったら助かる」の線で、つまり社内に十分いない能力が並びます。

たとえばSAPまわりの募集で、必須が「SAPの導入経験」、歓迎に「事業会社の経理実務経験」と書いてあるなら、その組織は業務を分かっている人が足りていないということです。経理からこの領域に入る道筋は経理からSAPコンサルへ転身した実話に書きました。

逆に、必須が「経理実務3年以上」、歓迎に「ERPの導入経験」なら、業務の人はいるがシステム側が薄い。同じSAPの募集でも、入ってから求められるものが逆になります。

歓迎要件は、入社後に自分が何で頼られるかの予告です。

「やりがい」の言葉を、稼働の言葉に翻訳する

編集が入る欄も、翻訳すれば使えます。悪意で書かれているわけではなく、良い面を先に書いているだけなので、裏側を自分で補えばいい。

求人票の言葉実務での意味面接で確かめる質問
裁量が大きい判断の後ろに人がいない。決めた責任も自分に来る「その判断は、誰の承認を通りますか」
幅広い業務に関われます役割が固定されていない。時期によって仕事が変わる「直近3か月、その役割の方は何に時間を使いましたか」
上流から関われます上流「も」ある。全部が上流ではない「上流の期間は、案件全体のどれくらいですか」
風通しがよい制度より人間関係で回っている可能性「意思決定の記録は、どこに残りますか」
大手クライアント多数会社の実績。自分が触る範囲とは別「私が入った場合、担当の候補はどのあたりですか」
手を挙げれば挑戦できる手を挙げない人には回ってこない「直近で手を挙げて動いた例を教えてください」
若手が活躍しています平均年齢が若い。上の層が薄い可能性「10年目以上の方は、どんな役割ですか」

翻訳した結果が悪いとは限りません。「役割が固定されていない」は、独立を考えている人にとってはむしろ財産になります。求人票の言葉を、良し悪しではなく事実に戻すのがこの表の目的です。

独立を視野に入れているなら、見る場所が変わる

いずれ独立するつもりで会社を選ぶ人は、求人票の読み方が変わります。私自身、独立してから「あの経験は効いた」「あれは効かなかった」がはっきり分かれました。

独立後に効いた経験は、次の3つに集まります。

  1. 顧客と直接話した経験 ── 提案の場に出たか、後ろで資料を作っていたか
  2. 領域を縦に深く取った経験 ── 広く浅くは、独立すると値段がつきにくい
  3. 見積と契約に触った経験 ── 金額がどう決まるかを見たかどうか

この3つは、求人票の「仕事内容」ではなく、必須要件と、面接で聞く直近の案件の中身に出ます。

  • 必須要件に「提案活動の経験」があるか
  • 「プロジェクトマネジメント経験」の中身が、進捗管理なのか、契約と金額を含むのか
  • 「クライアントとの折衝」が要件に入っているか

逆に、効かなかったのは社内の調整だけで完結する経験でした。会社の中では評価されるのに、外に出ると値段がつかない。ここは正直に書いておきます。

どの経験が独立後に売り物になるかは、コンサルへの転職は独立の何年前にすべきかと、事業会社へ移る選択と並べて比べたポストコンサルで事業会社に行く前ににも書きました。

面接で聞けば1分で分かる、求人票に書けないこと

求人票からは出てこないが、面接で一言聞けば分かることを並べます。私が出す側になってから、「これを聞いてくる人は現場を知っているな」と思う質問です。

  • 「直近3件のプロジェクトの、期間と人数と、その役割の人の担当を教えてください」 ── 一番効きます。案件の粒度と、自分が入る位置が同時に分かる
  • 「稼働の山は、いつ来ますか」 ── 決算期・本番稼働の直前など、必ずあります。ないと言われたら、それこそ確認が要る
  • 「客先に出る頻度は、いまの案件だとどれくらいですか」 ── 求人票の「プロジェクトによる」を実数に戻す質問
  • 「単価はどう決まっていますか」 ── 答えられる会社と、答えを持っていない会社が分かれる
  • 「入って半年で、できるようになっていてほしいことは何ですか」 ── 期待値が具体で返ってくるか、抽象で返ってくるかを見る

いずれも、答えの内容と同じくらい、答えが即座に出るかどうかが情報になります。現場の数字を持っている人は、迷わず答えます。

出す側になって分かった、書けないこと

最後に、採用する側から見た正直な話を書きます。

求人票に稼働の山を書かない会社は多い。理由は隠したいからではなく、書くと応募が減るのを知っているからです。そして、書かなくても入社後に必ず伝わることも知っている。それでも書けない。この矛盾を、私も自分の会社で人を採るときに味わいました。

書けない理由には、もう少し構造的なものもあります。

  • 案件によって違うので、正確に書けない ── 「プロジェクトによる」は逃げではなく、事実そのままであることが多い
  • クライアント名を出せない ── 守秘義務があるので、具体的な現場ほど書けなくなる
  • 配属が入社後に決まる ── 書いた時点では本当に決まっていない

だから私は、求人票を「隠しているかどうか」で見ないことにしました。代わりに見るのは、書ける範囲で具体を書こうとしているかです。

  • 勤務地に頻度の目安が添えてあるか
  • 募集背景が定型文でなく、事情に触れているか
  • 歓迎要件が、社内の不足として読めるくらい具体か

この3つが具体な求人票は、面接でも具体が返ってきます。逆にすべてが抽象で揃っている求人票は、面接でも抽象が返ってきます。求人票の具体度と、面接の具体度は、だいたい一致します。

なお、自分が独立して発注を受ける側になると、この関係は契約書のほうに移ります。何が書いてあり、何が書かれていないかを見る、という読み方は同じです。そちらは業務委託契約書はどこを読むかに書きました。

まとめ

  • 求人票は、事実の欄と編集された欄が混ざっている。先に読むべきは事実の欄
  • 稼働は、勤務地の書き方・給与レンジの幅・みなし残業・募集背景・選考フローの5か所から逆算できる
  • 歓迎要件は、その組織にいま足りていないもの。入社後に何で頼られるかの予告として読む
  • 「裁量」「幅広い」「上流から」は、良し悪しではなく事実に翻訳してから判断する
  • 独立を考えているなら、顧客と話した経験・縦に深い領域・見積と契約に触った経験が要件に含まれるかを見る
  • 面接では、直近3件の期間と人数と役割を聞く。答えの内容より、即答できるかが情報になる
  • 出す側にも書けない事情がある。具体度が揃っているかで見るのが実務的

求人票を読むのは、結局のところ「自分がその現場で何をする人になるのか」を先に見積もる作業です。そして、いずれ独立するつもりなら、その見積もりは会社を選ぶ基準そのものになります。

いま自分の経験のどこが外で通用して、どこが社内でしか効かないのかを整理したい方は、30秒の無料診断から始めてみてください。現在地が言葉になるだけで、次に読むべき求人票の種類が変わります。