独立を決めた人が、最初につまずくのがここです。
「個人事業主でいくか、法人を作るか」
先に結論を書きます。**この問いは、そのままの形では答えが出ません。なぜなら、決めなければならないのは「法人にするかどうか」ではなく、「いつ法人にするか」**だからです。ほとんどの人にとって、法人化は「するかしないか」ではなく、遅かれ早かれ通る分岐です。問題は順番だけです。
私は独立してから会社の形を一度変えています。この記事では、そのとき何をどの順番で見たかを書きます。
まず、個人事業主で始めるほうが合理的な理由
コンサルで独立する場合、最初の1年は個人事業主で始めるほうが、ほとんどのケースで合理的です。理由は3つです。
1|始めるコストがほぼゼロ。 開業届を1枚出すだけです。設立費用も、司法書士も要りません。手続きの詳細は開業届の出し方にまとめました。
2|やめるコストもほぼゼロ。 会社勤めに戻る判断をしたときに、廃業届を出すだけで終わります。法人を作ってしまうと、この出口が重くなります。
3|稼働が読めていない時期に、固定費を作らないで済む。 独立1年目は、案件が途切れる月が必ず出ます(稼働が空くパターンに整理しました)。売上が読めない時期に、売上と無関係にかかる費用を先に作るのは順番が逆です。
法人にすると、何が増えるか
法人化のメリットは語られやすい一方で、増える側があまり書かれていないので、先にこちらを並べます。
- 決算と申告の手間。個人の確定申告とは別物です。ほぼ税理士に依頼することになり、その顧問料と決算料が毎年かかります
- 赤字でも消えない税金。法人住民税の均等割は、利益が出ていない年でもかかります
- 社会保険への加入義務。役員1人の会社でも、社会保険は原則として加入対象です。国民健康保険・国民年金から切り替わるので、負担の形が変わります
- お金を自由に使えなくなる。法人の口座のお金は、自分のお金ではありません。役員報酬という形で、原則として年1回決めた額を毎月動かすことになります
- やめるときの費用。清算にも手続きと費用がかかります
つまり法人は、維持する前提の器です。器を先に作って、中身を後から探すのは、独立でいちばんやってはいけない順番です。
法人化する理由は、実質3つしかない
いろいろな相談を受けてきましたが、法人にすべき理由として本当に効くのは、この3つに絞られます。
理由1|取引先が、法人としか契約しない。 これがいちばん強い理由です。大手や上場企業の一部、官公庁の一部の案件では、個人事業主と直接契約しない社内ルールがあります。取りたい案件がそこにあるなら、法人化は手段ではなく前提条件になります。逆に、いま来ている案件が個人で受けられるなら、この理由はまだ発生していません。
理由2|社会保険に入りたい。 国民健康保険と国民年金の負担が重く感じられる、あるいは将来の年金額を上げたい、という動機です。ここは損得が人によって逆転するので、フリーランスの社会保険と国民健康保険の考え方を突き合わせてから判断してください。
理由3|人を雇う、または誰かと組む。 外注ではなく人を採る、共同で事業をやる、出資を受ける。ここまで来ると個人事業主では設計が窮屈になります。
逆に、「節税になりそうだから」だけを理由にするのは危険です。 税負担が下がる場合があるのは事実ですが、それは利益が一定水準を超えてからの話であり、しかも増える固定費と手間を差し引いた後の話です。分岐点は業種・家族構成・役員報酬の設定で動くので、一般的な目安を信じるのではなく、自分の数字で税理士に一度計算してもらうのが確実です。判断材料は法人化のタイミングにも書きました。
消費税は、昔ほど決め手にならない
かつては「法人を作ると最初の2年は消費税が免除されるから、売上が伸びてきたタイミングで法人化する」という定番の組み立てがありました。
ここはインボイス制度で事情が変わっています。インボイスの登録番号を出す立場になると、免税事業者でいるという選択が実務上取りにくくなるからです。取引先が仕入税額控除を取れないことを嫌がるためです。
したがって、**消費税を主な理由に法人化のタイミングを決める組み立ては、以前ほど機能しません。**関連はインボイスの基本と消費税の課税事業者の選択に分けて書いています。
合同会社から始めて、株式会社に変えるまで
私が実際に見た順番を書きます。
最初に合同会社を選んだ理由は、コストと速さでした。 設立の費用が株式会社より軽く、定款の認証も要らないので、立ち上げが早い。決算公告の義務もありません。「法人という器が必要になった、でもまだ大きくする段階ではない」時期には、合同会社は素直な選択でした。
株式会社に変えた理由は、相手側の反応でした。 会社の形そのものが、取引の入口で効く場面があります。相手が大きくなるほど、また新規で初めて取引する相手ほど、会社の形を見られる場面が増えます。加えて、人を採る段階に入ると、募集する側としての見え方も変わります。
私が学んだ順番は、こうです。
- 案件が先。器は後。 個人で受けられるうちは個人で受ける
- 法人が必要になる場面が、実際に来てから作る。 「来そうだから」ではなく「断られたから」で動く
- 最初は軽い器(合同会社)で足りる。 迷ったら軽いほうから始めて、必要になってから重くする
- 重い器(株式会社)に変えるのは、相手か採用が理由になったとき。 自分の気分ではなく、外からの要請で決める
この順番を逆にすると、売上の無い法人の維持費だけが残ります。 私が相談を受けるなかで、いちばん多い後悔がこれです。
よくある間違い、3つ
- 法人を作ってから案件を探す。 器が先にできると、焦って条件の悪い案件を取ります。安く受けてしまう構造にまとまっています
- 屋号と法人名を混同する。 個人事業主でも屋号は付けられます。名前が欲しいだけなら法人は要りません(屋号の付け方)
- 社会保険料を減らす目的だけで役員報酬を極端に低くする。 一時的に負担は減りますが、将来の年金と、借入をするときの評価に響きます
迷っている人への、判断の順番
- いま来ている案件・来そうな案件が、個人で受けられるかを確認する。 受けられるなら、まだ個人事業主で足ります
- 断られた実例が1件でも出たら、その時点で法人を検討する。 ここが本当の分岐点です
- 利益が出てきたら、自分の数字で税理士に試算してもらう。 一般論の分岐点ではなく、自分の分岐点を出します
- 人を採る・組む段階が見えたら、器の重さを上げる。
最初の1件をどう取るかは独立コンサルが案件を取るまでに、値段の感覚はコンサルの単価相場に分けて書きました。
個人事業主か法人かは、性格や覚悟の問題ではありません。外から要請が来たかどうかの問題です。
要請が来ていないうちは、身軽なほうが強い。来たら、そのとき作れば間に合います。器は、いつでも重くできます。軽く戻すほうが大変です。
準備の現在地を整理しておきたい方は、30秒の独立準備度チェックから入ってみてください。登録は要りません。