「コンサル 独立 やめとけ」。あるいは「コンサル独立 後悔」。検索窓にその言葉を打ち込んだとき、あなたは本当はどっちの答えを探していたんだろう、と思います。背中を押してほしいのか、それとも止めてほしいのか。たぶん、両方ですよね。私もそうでした。やりたい気持ちは確かにあるのに、夜になると「いや、やめとけって言われてるしな」と、行かない理由のほうを自分に集めてしまう。あの感じは、よく覚えています。
私はアビームコンサルティングとアクセンチュアで、SAP(エスエーピー。会社の会計・購買・在庫・人事といった業務を一本につないで動かす業務システム。こういうシステムをまとめてERP〈基幹システム〉と呼びます)の財務会計の仕事をしたあと、独立してNever Red株式会社という会社を作りました。だからこそ言えます。「やめとけ」と言われる理由には、本当に怖いものと、ただの脅しが混ざっている。この記事では、それを一つずつ、当事者として分けていきます。気休めは書きません。でも、必要以上に脅すこともしません。あなたが自分で線を引けるように書きます。
「やめとけ」と言ってくる人は、たいてい独立していない
まず、身も蓋もない話をします。あなたに「独立はやめとけ」と言ってくる人の顔を、一度、具体的に思い浮かべてみてください。その人は、実際に独立したことがある人ですか。
私の経験では、強く「やめとけ」と言ってくる人ほど、自分は会社員のままで、独立した経験がないことが多いです。これは皮肉で言っているのではありません。人は、自分が選ばなかった道を「正しくなかった道」だと思っておきたい生き物だからです。あなたが独立して上手くいくと、その人は自分の選択をほんの少し否定された気持ちになる。だから止める。たいてい悪気はないんです。ただ、その言葉はあなたのためというより、その人自身が安心するために出ている。そこは冷静に見分けたほうがいい。
逆に、実際に独立して何年か続けている人に同じことを聞くと、答えはもっと淡々としています。「向き不向きはあるよ」「準備はしたほうがいい」「でも、思ってたほど特別なことじゃないよ」。脅さない。事実だけを言う。私が独立を決めたとき、本当に効いたのは後者の声でした。同じ「やめとけ」でも、誰の口から出たかで、重みがまったく違う。これは最初に握っておいてほしいことです。
本当に怖い「やめとけ」は、たしかにある
脅しを差し引いても、独立にはちゃんと怖いものが残ります。ここは正直に書きます。きれいごとで塗ってしまうと、あなたが実際に独立した日に、裏切られた気持ちになるからです。
ひとつ目は、収入が止まる月が、いつか必ず来ること。会社員は、たとえ体調を崩して半分しか働けなかった月でも、月末になればお金が振り込まれます。この「黙っていても入ってくる」感覚は、独立すると消えます。案件と案件の間が一か月空けば、その月の入金はゼロです。私も独立して最初の年に、ほぼ決まりかけていた話が、先方の上の事情で流れたことがありました。署名する直前まで進んでいたのに、相手の組織の都合で全部消えた。何もしていないのに、口座の数字だけが減っていく。あのときの、胃の底が冷たくなる感じは、今でも体が覚えています。SAPの財務会計のような専門職は、単価そのものは決して悪くありません(未経験から入る立場で月60〜75万円、経験を積んでプロジェクト全体を束ねる立場で月250〜300万円が一つの目安です。ただし、あくまで目安で、案件や時期、本人の経験によって動きます)。でも、その単価が「毎月続く保証」は、どこにもない。これは脅しではなく、本物の怖さです。
ふたつ目は、全部が自分の責任になること。営業も、契約も、請求書も、確定申告(一年間の儲けを自分で計算して税金を申告する手続き)も、体調管理さえも、誰も代わってくれません。会社員のとき、当たり前のように後ろにいてくれた経理も総務も、独立した瞬間にいなくなります。トラブルが起きても、最後にハンコを押すのは自分一人です。これは自由の裏側であって、切り離せない。
みっつ目は、孤独です。これは数字に出ないぶん、いちばんじわじわ効いてきます。判断に迷ったとき相談できる上司がいない。今日の自分の仕事を見てくれる人がいない。家で一人、画面に向かっている時間が長くなる。これについては別の記事で、私が実際にやって少し効いたことを正直に書いたので、しんどいときはフリーランスの孤独と不安との付き合い方をのぞいてみてください。
ただの脅しでしかない「やめとけ」も、ある
一方で、よく言われるのに、実際にはそこまで怖くなかったものもあります。これを脅しとして見抜けるかどうかで、踏み出せるかどうかが変わります。
「独立したら仕事が取れなくて干される」。よく聞きますよね。でも、これは少し言い過ぎだと感じています。少なくともSAPの財務会計のような専門領域では、慢性的に人が足りていません。きちんと現場で動ける人なら、声がまったくかからずに干される、という状況にはなりにくい。問題は「ゼロか百か」ではなく、「最初の一本目をどう取るか」です。そして一本目は、たいてい前職や、これまで一緒に働いた人とのつながりから来ます。見ず知らずの相手にいきなり営業して取るわけではないんです。そもそも営業という言葉が怖い、という気持ちそのものについては、フリーランスの営業が怖い人へで正面から書きました。
「独立したら会社員には二度と戻れない」。これも脅しの側だと思います。実際には、独立して数年やった人が会社員に戻る例は、めずらしくありません。むしろ「外で食べていけることを一度証明した人」として迎えられることもある。独立は片道切符ではないんです。やってみて合わなければ戻る、という選択肢は、ずっと手元に残っています。これを知っているだけで、最初の一歩の重さは、ずいぶん軽くなるはずです。
「税金や手続きが複雑すぎて、素人には無理」。これも、戸惑うのは最初の年くらいで、慣れれば月々の事務作業の一つに収まります。開業届(個人で事業を始めますと税務署に出す書類)も、インボイス(消費税の適格請求書。取引相手が消費税の控除を受けるために必要な、決まった形式の請求書)の登録も、手順は調べれば決まっています。怖いのは中身ではなく、やったことがない、という一点だけです。
では、後悔するのは、どういう人か
「コンサル独立 後悔」と検索する人が本当に知りたいのは、たぶん「自分は後悔する側か、しない側か」だと思います。私が見てきたかぎり、後悔した人には、ある共通点がありました。
それは、逃げとして独立した人です。今の会社が嫌で、人間関係がしんどくて、とにかくこの場から消えたい一心で飛び出した人。独立は、嫌なものから逃げる手段としては、たぶん最悪の部類です。逃げた先で嫌なことが減るどころか、自分でやらなければいけないことが一気に増えるからです。逃げで始めると、「こんなはずじゃなかった」が、わりと早く来ます。場所を変えただけで、しんどさの中身はついてくる。
逆に後悔しにくいのは、自分の腕で立ちたいから独立した人です。会社の看板ではなく自分の名前で仕事をしたい、その値段を自分で決めたい、という方向に動機が向いている人。同じ「独立」でも、嫌なものから後ろ向きに飛び出すのと、やりたいことへ前向きに踏み出すのとでは、着地がまるで違います。だから「やめとけ」と言われたときに本当に考えるべきは、独立そのものの是非ではなくて、自分の動機がどっちを向いているか、なんです。そこさえ見えていれば、他人の「やめとけ」に振り回されなくなります。
そしてもう一つ。準備をしてから出た人は、後悔が浅い。生活費の半年分くらいの貯金、一本目の当てになりそうな人とのつながり、最低限の事務知識。これだけ用意してから出るかどうかで、最初の「入金ゼロの月」の精神状態がまるで違います。同じ無収入でも、貯金があれば「想定内」、なければ「事故」になる。何から準備すればいいかはコンサルの独立準備は何からにまとめました。「やめとけ」を、自分の中で「準備してから行け」に翻訳できた人が、結局いちばん落ち着いて続いています。
私が独立して、いま思うこと
正直に言えば、私にも後悔した夜はありました。例の、決まりかけた話が流れて入金の当てが消えた月。布団の中で天井を見ながら「やっぱりやめとけばよかったのかもしれない」と、何度も思いました。そういう夜は、確かにあった。これは隠しません。隠したら、この記事を書く意味がない。
でも、トータルで聞かれたら、私は独立してよかったと答えます。理由は、お金でも自由な時間でもなくて、「自分の判断で生きている」という手応えが戻ってきたからです。会社員のときは、どこかで自分の人生を誰かに預けている感覚がありました。良くも悪くも、決めてくれる人がいた。独立してからは、上手くいくのも、こけるのも、全部自分のせいです。これは怖いことです。でも同時に、ようやく自分の足で立っている、という感じがする。怖さと手応えは、たぶん同じものの裏表です。
だから「コンサル独立はやめとけ」は本当か、と聞かれたら、私の答えはこうです。逃げで、準備なしで、勢いだけで出るなら、やめとけは本当。自分の腕で立ちたくて、半年は食べられる準備をして、戻る道もあると分かったうえで出るなら、やめとけはただの脅し。あなたがどっち側にいるかは、検索ではなく、あなた自身がいちばん分かっているはずです。怖いのは当たり前なんです。怖くない独立なんて、たぶん一つもありません。その怖さを準備に変えられたとき、はじめて「やめとけ」は、あなたを止める言葉ではなくなります。