「コンサルとして独立したい。でも、何から手をつければいいのか分からない」。数年前の私が、まさにそうでした。辞表を出す勇気より、その前の準備で頭が真っ白になる。お金は足りるのか、案件は来るのか、もし続かなかったら家族に何と言うのか。この記事は、その不安に正面から答えます。早稲田の商学部からアビーム、アクセンチュアを経て、SAPという会計システムの財務会計まわりを入れるPM(導入をまとめる責任者)として独立し、いまNever Redという会社をやっている私が、会社を辞める「前」に実際にやったことを、やった順番のまま書きます。コンサルの独立は、勢いではなく順番で決まる。これは、痛い目を見た側として断言できます。

コンサルの独立で、いちばん最初に決めるのは「辞める日」ではない

独立を考え始めた人が、最初にやりがちなことがあります。退職日を決めることです。気持ちは痛いほど分かる。私もカレンダーを眺めて「ここで区切ろう」とやりました。でも、これは順番を間違えています。辞める日から逆算すると、準備が全部「間に合わせ」になる。焦って案件を取り、相手に足元を見られ、安く請けて、生活が削られていく。独立してすぐ会社員に戻った人を何人か見てきましたが、共通点は腕の差ではありませんでした。準備の順番を飛ばしたこと。これに尽きます。

最初に決めるのは、辞める日ではありません。「自分は何で食べていくか」を一行で言い切ることです。私の場合は『SAPの財務会計まわりを、導入から定着まで一人で回せる』。たったこれだけ。でも、この一行があったから、会社の看板を外しても仕事が消えなかった。あなたの一行は何か。コンサルの独立準備は、ここを言葉にするところから始まります。曖昧なまま辞めると、あとで必ず詰まります。

もう一つ大事なのは、その一行が「肩書き」ではないということ。コンサルという仕事は幅が広い。だから「誰の、どんな困りごとを、いくらで解けるか」まで落とさないと意味がない。元コンサル、では弱い。『決算が遅い会社の締めを早める』『システム入れ替えで現場が混乱しないように橋渡しする』。そこまで言えるかどうかが、独立後の単価と安心を分けます。私は、自分が選ばれる理由を一文で言えるようになるまで、辞めませんでした。

会社を辞める前に、まず「お金の現実」を数字で見る

独立 準備で最初にやるべき、いちばん地味で、いちばん効くこと。生活費を数字にすることです。月にいくらあれば暮らせるか。家賃、保険、税金、食費、子どもの分。私は紙に書き出しました。正直、見たくない数字でした。でも、ここを曖昧にしたまま辞めるのが、いちばん危ない。希望的観測は、口座残高の前では無力です。

私が自分に課した目安は、『収入ゼロでも半年は暮らせる現金』でした。半年あれば、たいていの案件の芽は形になる。逆にこれがないと、最初の一件を焦って安く請けてしまう。生活防衛のお金は、勇気ではなく余白です。余白がある人だけが、嫌な仕事を断れる。いい仕事を選べる。これは、きれいごとではなく本当の話です。金額は家族構成でまるで変わるので、ここで「いくら」とは言い切りません。でも順番だけは同じ。『いくら稼ぐか』より先に『いくらで暮らせるか』を知っておく。攻めの前に、守りの数字です。

それと、会社員のうちにやっておくべき地味なことがあります。クレジットカードを作っておく、住まいの契約まわりを整えておく。独立直後は、社会的な信用を測る数字が一度下がる時期があるからです。会社の看板が使えるうちに、整えられるものは整えておく。私はここを軽く見ていて、辞めたあとで一度「しまった」となりました。準備とは、未来の自分が困らないように、いまの立場を使い切ることでもあります。

独立 コンサルの命綱は「案件の芽」。辞める前に一本だけ作る

お金の次は、案件です。ここで多くの人が固まる。「辞めてから探せばいい」と思いがちですが、私は逆だと思っています。会社を辞める前に、芽を一本だけでいいから作っておく。あるかないかで、独立後の景色がまるで違います。芽が一本あるだけで、夜の眠りの深さが変わる。これは経験者として言えます。

誤解しないでほしいのは、在職中に堂々と営業しろ、という話ではないこと。それは契約に触れかねないし、何より筋が悪い。そうではなく、これまで一緒に働いた人、感謝してくれた人に「もし独立したら声をかけてくださいね」と、種をまいておく。それだけです。私の最初の案件は、新規の売り込みではありませんでした。過去に手を抜かずに仕事をした相手からの、一本の連絡でした。昔の自分が残した信頼が、独立した自分を救った。これが、私が一番伝えたいことです。

独立 コンサルで意外と知られていないのは、最初の一件は『腕』より『信頼の残高』で決まるということ。だから準備期間にやるべきは、派手な売り込みではなく、過去の関係を静かに耕すこと。連絡が途絶えていた人に、近況を一言。それだけでいい。芽は急には咲きません。だから早く、種をまく。

ただし、芽は一本では細い。独立後に一社へ依存すると、その一社の都合で生活が揺れます。私はこれで一度ヒヤッとしました。先方の予算が止まった、というだけで、来月の見通しが消えかける。準備段階で『芽を一本作る』、独立してからは『二本目、三本目を意識して増やす』。この順番を頭に入れておくだけで、後がだいぶ楽になります。

契約と税金、苦手でも逃げられない「事務の土台」

案件の芽ができたら、次は契約と税金です。正直に言います。私はここがいちばん苦手でした。SAPで他社の会計はいくらでも整えられるのに、自分の確定申告となると、急に他人事みたいに頭が止まる。でも、独立する以上、ここから逃げると後で痛い目に遭います。逃げた分だけ、必ず利子をつけて返ってくる。

会社を辞める前にやっておくと楽なのは、開業まわりの手続きをひと通り調べておくことと、請求書や契約書の「型」を一度作っておくことです。最初の案件が決まってから慌てて作ると、必ず抜けが出る。報酬をいつ・どう受け取るか、もし揉めたときにどうするか。地味な取り決めほど、曖昧にすると後で自分が泣きます。私は一度、口約束に近い形で進めて冷や汗をかきました。

税金は、会社員時代との違いを早めに知っておくこと。同じ金額をもらっても、引かれ方も、手元に残る感覚もまるで変わります。私は最初の確定申告で、想像と違う数字を見て本気で青ざめました。だから、報酬の決め方は、よその相場を眺めるよりも『自分の暮らしと、かけた労力に対して、納得できるか』で考えるのがいちばん続きます。高いか安いかではなく、納得できるか。ここを自分の物差しで持てると、値段の交渉でも腹が据わります。

それと、ここは専門家に頼っていい部分でもあります。全部を一人で抱え込まない。税理士に相談する、という選択肢も含めて、準備の段階で『誰に頼るか』を決めておく。独立は、何もかも一人でやることではありません。私もそう思い込んでいて、最初に余計に苦しみました。

心の準備——孤独と、決め続ける疲れにどう備えるか

お金、案件、契約。手順の話をしてきましたが、最後に、見落とされがちな準備があります。心の備えです。これは精神論ではありません。続けられるかどうかを左右する、れっきとした実務です。

独立すると、相談する上司がいなくなります。これが、思った以上にこたえる。仕事の判断も、値段も、断る勇気も、全部自分一人で決める。決め続ける、というのは、想像より疲れます。私は独立して最初の数ヶ月、夜に一人で天井を見ながら考え込む時間が増えました。会社にいた頃は、同僚に愚痴れば軽くなった重さが、行き場をなくす。誰も悪くないのに、ただ重い。

だから準備として、辞める前に『独立後に話せる相手』を一人でも持っておくこと。同じように独立した先輩でも、同業の知人でもいい。利害がなく、ただ近況を話せる相手。私はここを軽く見ていて、後でじわじわ効いてきました。技術や資金の準備はみんな意識する。でも、孤独への備えを準備リストに入れている人は、驚くほど少ない。

もう一つ、生活のリズムを崩さないこと。独立すると、際限なく働けてしまう。境界がないんです。気づけば日付が変わっている。私は朝に散歩する習慣を、疑似的な『通勤』として残しました。光を浴びて、一日の始まりに線を引く。たったそれだけ。でも、長く続けるための土台は、特別な能力ではなく、こういう生活の型のほうだと、いまははっきり思います。

順番で迷ったら、一人で抱えなくていい

ここまで読んで、こう思った人もいるはずです。「順番は分かった。でも、自分の場合は何から?」と。それは当然です。お金の余白も、案件の芽も、家族の状況も、人によってまるで違う。一般論の手順を、自分の現実に翻訳する。この作業が、実はいちばん難しい。私もそこで一番悩みました。

独立するとき、誰かに『あなたの場合は、この順番だ』と整理してもらえたら、どれだけ心強かったか。何度もそう思いました。だから今、Never Redでは、独立を考えているコンサルの方の伴走をしています。背中を無理に押すのではなく、一緒に順番を引く。あなたの一行は何か、お金の余白は足りるか、芽はどこに眠っているか。声に出して棚卸しするだけで、霧が晴れることがあります。私自身がそうだったからです。

独立は、勢いで飛ぶものではありません。準備の順番を、自分の現実に合わせて引き直す。それができれば、辞める日は自然と見えてきます。一人で抱え込まないでください。それが、先に飛んだ側からの、いちばん正直な助言です。