打診が来ました。ありがたい話です。ただ、条件が合わない。稼働日数が多すぎる、開始が早すぎる、やることの範囲が広すぎる。
断りたい。でも手が止まります。断ったら、次が来なくなるんじゃないか。
そう思って受けてしまった案件を、私は独立して最初の2年で何本か持っています。受けたあと後悔したかというと、後悔よりも、その稼働で埋まった時間に他の話を返せなかったことのほうが痛かった。断れなかったコストは、断ったコストより見えにくいところに出ます。
この記事は、その一点だけを扱います。断ったあとに、実際に何が起きるか。
打診が2本重なって「どちらを取るか」を決める場面は案件が2つ重なったとき、どちらを取るかに、いま稼働している契約を先方から切られた場面は業務委託を切られた日から30日で何をするかと業務委託の契約が更新されないと分かった月にやることに、そもそも打診が来ていない状態はフリーランスで「仕事がない」が怖かった私がやったことに、それぞれ分けて書きました。ここでは打診が1本あって、それを断る話だけをします。
断って関係が切れるのは、断ったからではない
先に結論を書きます。私の経験の範囲では、断ったこと自体で関係が切れたことは、ほとんどありません。
切れたのは、次の2つのときでした。
- **返事が遅かったとき。**断るかどうか迷って1週間置いた案件は、こちらが答えを出す前に相手の側で埋まっていました。そして、その相手からの打診はしばらく来ませんでした
- 断り方が曖昧だったとき。「いま少し立て込んでいまして」で終わらせた返事は、相手の中に何も残しません。残らないので、次に案件が立ったときに思い出されません
ここが、この記事でいちばん伝えたいことです。
発注する側が困るのは、断られることではありません。予定が立たないことです。だから、早く断ってくれる相手は、次にもう一度声をかけられます。
理由は、相手の立場に立つと単純です。案件が立ったとき、声をかける相手は普通3人か4人います。1人目が3日で「受けられません、ただし11月以降なら空きます」と返してくれれば、その日のうちに2人目に動けます。1週間「検討します」で止まると、その1週間ぶんだけ相手の段取りが遅れます。遅らせた記憶は、断られた記憶より長く残ります。
私は声をかける側もやっています。こちらから独立志望の人に打診を出した経験は「いつか独立したい」と言う人に声をかけて分かったことに書きましたが、返事が早い人ほど、次の話も自然にその人から並べていました。特別に評価しているわけではなく、動かしやすい相手から順に並ぶというだけの話です。
断る前に、本当に断る話かを確かめる
断り方の前に、一つ手前の工程があります。打診の多くは、条件が固まっていない状態で来ます。
「週4日で」「10月から」と書いてあっても、それは相手の希望の初期値であることが多い。ここを確かめずに断ると、条件を動かせば受けられた話まで落としてしまいます。
私は断ると決める前に、この4つを聞きます。
| 確かめること | 聞き方 | 動いた経験 |
|---|---|---|
| 開始時期 | 「開始は◯月からでも成立しますか」 | よく動く。相手の社内の決裁が終わっていないことが多い |
| 稼働日数 | 「週◯日でも回る設計にできますか」 | 動くことがある。人数を割る前提で組み直せる場合 |
| 役割の範囲 | 「この範囲のうち、◯◯だけを切り出せますか」 | いちばん動く。全部やる前提は相手も詰めていない |
| 契約期間 | 「まず3か月で区切って様子を見る形は可能ですか」 | 動く。長期前提は相手にとってもリスク |
4つとも「動かせません」と返ってきたら、そこで初めて断る話になります。この確認を挟むだけで、断る対象は目に見えて減ります。
そして、この確認そのものが相手に情報を渡します。条件を聞き返せる相手は、こちらの働き方を分かっている相手です。範囲の切り出し方の考え方は案件が2つ重なったとき、どちらを取るかにも書きました。
断る理由を、単価で言わない
ここが、断り方の中心です。
条件が合わない理由が金額であることは、実際に多い。ただ、それをそのまま理由として伝えると、返ってくるのは値段の交渉だけになります。
そして交渉になると、こちらが口にした金額が相手の台帳に残ります。次に案件が立ったとき、相手が思い出すのは「あの人は◯◯万から」という数字です。**一度置いた数字は、上げるより下げるほうがずっと簡単に動きます。**この非対称は、最初の値付けの場面とまったく同じ構造です(独立して最初の1件を、いくらで出すか)。
だから、理由は範囲と期間で言います。頭に浮かんでいる本音を、そのまま出さずに言い換えます。
| 頭に浮かぶ理由 | 伝える言い方 |
|---|---|
| 安い | 「この範囲を週◯日で受けると、他の稼働と重なります」 |
| 内容が自分の持ち駒と合わない | 「この論点は、私が値段に見合う出し方をしにくい領域です」 |
| 常駐の条件が重い | 「週◯日の現地固定だと、いまの稼働の組み方では受けられません」 |
| 発注元の決裁が見えなくて不安 | 「開始の判断がいつ出るかが読めないので、この期間では押さえられません」 |
| 期間が長すぎる | 「この長さで押さえると、来期の予定が全部この形になります」 |
言い換えの共通点は一つです。どれも「自分の側の事情」の形になっていて、相手を評価していない。
「安いので」は、相手の提示への評価です。評価を返された側は、条件を直すか、話を引くかの二択になります。「他の稼働と重なります」は、こちらの都合です。都合は変わりうるので、相手の側に「では時期を変えて」という次の手が残ります。次の手が残る断り方をすると、次の打診が来ます。
なお、金額そのものを動かしにいく場面は別の話です。提示額を上げにいく手順はフリーランスの単価交渉のしかたに、稼働中に減額を打診された場面は単価の減額を打診されたらに、相場そのものはコンサルの単価相場にまとめました。この記事で扱っているのは、交渉に行かずに断ると決めたあとの話です。
断り方は、4つの部品でできている
実際に送る文面は、4つの部品で足ります。順番も、この順です。
1|結論を、最初の3行に置く。 「今回は見送らせてください」を先に書きます。事情の説明から入ると、読む側は最後まで読まないと結論が分かりません。相手は同じ日に何人にも声をかけています。結論が3行目までに無い返信は、判断を1回ぶん遅らせます。
2|理由は、範囲と期間で、1つだけ。 複数並べると、相手はいちばん動かしやすいものを潰しにきます。潰されると、こちらは次の理由を出すことになる。**理由の数だけ交渉が続きます。**1つに絞ると、そこで話が終わります。
3|いつなら空くかを、日付で添える。 「11月以降なら週2日空きます」の一行です。この一行があるかどうかで、断りの意味が変わります。断りは「今回はできない」の表明ですが、日付が付くと「この日から先の予定を押さえてよい」という情報になります。相手の台帳に残るのは名前ではなく、日付です。
4|渡せるものがあれば、情報を渡す。 論点の整理、似た案件で踏んだ落とし穴、確認しておいたほうがよい前提。1〜2行で足ります。断った相手に一つだけ持って帰ってもらうと、断りが打ち合わせの一部になります。
一つだけ、私が線を引いていることがあります。**人を紹介するのは、慎重にしています。**紹介した相手の稼働が合わなかったとき、失うのは相手からの信用ではなく、紹介した本人との関係のほうです。紹介するなら、その人の空き状況と、受ける気があるかを先に確かめてからにしています。確かめずに名前だけ出すのは、断りを人に付け替えているだけになります。
やってはいけない断り方、3つ
逆側も書きます。次が来なくなった断り方は、この3つでした。
1|返事を遅らせる。 いちばん効きます。断る内容よりも、断るまでの日数のほうが記憶に残ります。迷っている時点で、迷っていることを伝えるほうがまだいい。「◯日までに返します」と先に書いておけば、それ自体が予定になります。
2|「検討します」のまま消える。 これは断ったことになりません。相手の側では「まだ生きている候補」として残り続け、埋まったあとに気まずさだけが残ります。**断るなら、断ると書く。**曖昧に流すのは、相手の時間を使い続ける選択です。
3|条件を全部並べて、相手に選ばせる。 「稼働がこうで、時期がこうで、金額がこうなら受けられます」と条件表を返すやり方です。丁寧に見えますが、相手からすると宿題が増えただけです。**こちらが受けられる形を1つ提示するか、断るか。**その二択のほうが、話が前に進みます。
断ったあと、次が来た人と来なかった人
正直に書きます。断ったあとに次が来なかったケースも、あります。
私の場合、来なかったのは断ったあと、一度も接点を作らなかった相手でした。断り方が悪かったからではありません。単純に、相手の記憶の中でこちらの空き日程が古いまま止まったからです。
打診する側の頭の中には、「この人は今忙しい」という状態が残ります。その状態は、こちらが更新しない限り更新されません。**半年前に断ったときの「忙しい」が、半年後もそのまま残っている。**これが、断ったあとに次が来ない主な理由でした。
案件の入口が実際どこから来ているかはフリーコンサルの案件は、どこから来ているのかに整理しましたが、経路の大半は過去に一緒に働いた人です。過去に一緒に働いた人ほど、こちらの近況を知らないまま止まりやすいというのが、断ったあとに効いてくる部分でした。
断ったあとの30日で、一度だけやること
やることは一つです。空き日程が動いたときに、一行送る。
「◯月から週2日空きました」だけで足ります。営業ではありません。前に渡した日付の更新です。前回の断りで日付を添えてあれば、この一行は自然に続きます。添えていなければ、ここで初めて日付を出すことになります。
頻度は、一度だけにしています。断ったあとに繰り返し連絡を入れると、断りの意味が薄くなります。声をかける側をやってみて分かったのは、追いかけられると、相手は決めなくてよくなるということでした。追いかけるのを1回で止めた話は「いつか独立したい」と言う人に声をかけて分かったことに書いています。
断りにくいのは、性格ではなく、打診が1本しかないから
最後に、構造の話をします。
断れない人が断れないのは、気が弱いからではありません。**目の前に打診が1本しかないからです。**1本しかない状態では、断る判断はできません。断ったあとに何も残らないからです。
つまり、断り方を練習するより先に効くのは、打診が2本ある状態を作ることです。入口の作り方は独立コンサルの案件の取り方に、経路ごとの違いはフリーコンサルの案件は、どこから来ているのかに、稼働が空く月がどう作られるかは独立コンサルの「谷の月」はどう作られるかに書きました。
そして、「案件はいくらでもある」と言われて安心してしまう前に確かめることは「案件はいくらでもある」と言う会社に、本当に案件があるかにまとめてあります。断れる状態は、断り方ではなく、入口の本数で決まります。
受けたあとに降りるのは、断るとは別の話
念のため、線を引いておきます。
ここまでは受ける前に断る話でした。すでに契約して稼働に入ったあとに降りるのは、断りではなく契約の解除です。予告期間、最低契約期間、違約金の向きが関わってきます。
準委任契約の中途解約と、それまでの稼働分の精算の考え方は準委任契約とはに、契約書のどこを見るかは業務委託契約書、最低限みるべき場所にまとめました。**降りる可能性がある案件ほど、受ける前に解約条項を読んでおく。**これは断り方ではなく、契約の話です。
まとめ
- **断ったこと自体で関係が切れることは、ほとんどない。**切れるのは返事が遅かったときと、断り方が曖昧だったとき
- 発注する側が困るのは断られることではなく、予定が立たないこと。早く断る相手は、次にもう一度声をかけられる
- 断る前に4つ確かめる。**開始時期・稼働日数・役割の範囲・契約期間。**動かせる打診が混ざっている
- 理由を**単価で言わない。**単価で断ると返ってくるのは値段の交渉だけで、口にした数字が相手の台帳に残る
- 理由は範囲と期間で言う。相手への評価ではなく自分の都合の形にすると、相手の側に次の手が残る
- 文面は4つの部品。結論を3行以内/理由は1つだけ/いつ空くかを日付で/渡せる情報があれば1〜2行
- やってはいけないのは、返事を遅らせる/「検討します」のまま消える/条件を全部並べて相手に選ばせる
- 次が来なかったのは、**断ったあと一度も接点を作らなかったとき。**相手の中では前回の「忙しい」が更新されないまま残る
- 断ったあと30日で一度だけ、**空き日程が動いたら一行送る。**追いかけるのは1回で止める
- そもそも断りにくいのは性格ではなく、**打診が1本しかないから。**断れる状態は入口の本数で決まる
断るのが上手い人を見ていると、言い回しが特別なわけではありませんでした。**返事が早く、理由が1つで、日付が入っている。**それだけです。
自分の稼働と空き日程をいま一度言葉にしておくと、次の打診が来た日の判断が速くなります。独立してからの案件の入口づくりを扱っているフリーコンサル アカデミーも、あわせて置いています。
関連記事:案件が2つ重なったとき、どちらを取るか/フリーコンサルの案件は、どこから来ているのか/独立コンサルの案件の取り方/「案件はいくらでもある」と言う会社に、本当に案件があるか/最初の案件をつい安く受けてしまうのはなぜか/フリーランスの単価交渉のしかた/単価の減額を打診されたら/業務委託を切られた日から30日で何をするか/業務委託契約書、最低限みるべき場所
出典:本記事の内容は、筆者自身が独立後に打診を断った経験と、当社が独立志望者へ打診を出した側の記録に基づく整理です。「断ったあとに次が来た/来なかった」の傾向は筆者個人の実感であり、統計に基づくものではありません。契約期間・解約予告・違約金の扱いは契約書の定めと個別の事情で結論が変わるため、実際の判断は契約書の全文を確認のうえ、弁護士等の専門家にご確認ください。