独立を考えて相談に行くと、わりと高い確率でこう言われます。

「案件はいくらでもありますよ」

嘘をつかれている、という話ではありません。**言っている側も、たいてい本気でそう思っています。**問題は、その言葉が何を根拠にしているかを、言っている側自身が確かめていないことです。

これは、私が自分の会社の台帳を点検して分かったことです。人を受け入れてくれそうな会社を集める側に回ったとき、自分たちの台帳に、案件の実在を記録する欄が1本も無いことに気づきました。会社名は並んでいる。連絡先も、業種も、規模も入っている。でも「いま何人分の空きがあるか」を書く列が、どこにも無かった。

無いものは集計できないので、数えれば必ずゼロが出ます。**そのゼロは「需要が無い」という測定結果ではなく、測る計器が無いという意味のゼロでした。**私はこれを、自分の台帳で確認しました。

「いくらでもある」の中身は、3つに割れる

聞いた側は同じ言葉として受け取りますが、言っている側の根拠は3つに割れます。

  1. いま実際に、埋めたいポジションがある(本物)
  2. 過去にあった。だから今もあるはずだ(記憶の投影)
  3. 市場全体では足りていないらしい。だからうちにもあるはずだ(一般論の借用)

2と3は嘘ではありません。ただし、あなたが来月から入れる椅子があるかどうかとは、何の関係もありません。

そして厄介なことに、この3つは同じ口調で語られます。声の大きさでも、会社の規模でも見分けがつきません。だから、言い方ではなく答えの中身で見分けるしかありません。

聞き返す4項目

見分ける方法は単純です。この4つを聞き返してください。世間話の口調で構いません。

1|いま空いているポジションは何件ですか。 「いくらでも」ではなく件数を聞きます。本物なら数字が返ってきます。3件、5件、と。返ってこないなら、その会社は件数を数えていない、つまり管理していないということです。

2|職種は何ですか。 PMOなのか、業務側の要件定義なのか、開発なのか、常駐の運用なのか。**「コンサル」という粒度で返ってきたら、それはまだ案件になっていません。**発注が具体化すると、必ず職種の粒度まで割れます。

3|単価帯はいくらですか。 幅で構いません。ここで「相談ですね」「経験によります」しか返らないなら、単価を決める段階に至っていないということです。実在する案件には、必ず予算の上限があります。相場の考え方はコンサルの単価相場にまとめました。

4|開始時期はいつですか。 「すぐにでも」は答えではありません。今月なのか、来四半期なのか、次の期の予算がついてからなのか。時期が言えない案件は、まだ社内で承認されていません。

なぜこの4つなのか

この4項目は、私が思いついたものではありません。発注が実在するとき、この4つは必ず決まっているからです。

会社が外部に人を頼むまでには、必ず順番があります。誰かが困る → 中で埋まらないと分かる → 何人・どの職種で埋めるかが決まる → 予算が付く → 開始時期が切られる。この工程を通っていない話は、まだ案件ではなく願望です。

逆に言えば、4つとも即答できる相手は、社内でこの工程を通した相手です。信用していい。

4つのうち2つしか返ってこないときは、半分だけ本当だと思ってください。よくあるのは「職種と時期は言えるが、件数と単価が出てこない」型です。これは「困っている部署はあるが、予算がまだ」の状態です。悪い話ではありませんが、あなたが来月から食べられるかとは別の話です。

答えられない側は、悪意でそうしているわけではない

ここは正直に書きます。

私たち自身が、この4項目を持っていませんでした。会社のリストは作った。接触もした。**でも「空きポジションは何件ですか」という問いを、まだ誰にも投げていなかった。**投げていないのだから、答えを持っていないのは当たり前です。

そのことに気づかず、社内の数字だけを集計して「需要が確認できない」と結論しかけました。聞いていないことを、無いことと取り違えるところでした。

同じことが、あなたの相談相手の側でも起きています。案件が無いのではなく、**確かめていない。**だから4項目を聞かれると答えられない。責める必要はありません。ただ、その答えを自分の生活の前提にしてはいけない、というだけです。

「案件はいくらでもある」は、相手の誠実さの問題ではなく、相手が計器を持っているかどうかの問題です。

聞き返したあとに見るもの

4項目を投げると、答えの中身より反応の仕方で分かることがあります。

  • すぐ数字が出る:管理されています。信用度が高い
  • 「確認して折り返します」と言い、実際に折り返してくる:いま無くても、取りに行ける相手です。むしろ良い相手かもしれません
  • 質問をはぐらかす/「まずご登録を」と話を戻す:件数を持っていない可能性が高い。急いで決めない
  • 聞いたことで不機嫌になる:この一点だけで、私は距離を置きます。契約後にもっと重い交渉が必ず来るからです

独立前なら、この確認は必ず入れる

まだ会社を辞めていないなら、**辞める前にこの4項目を投げてください。**辞めたあとだと、答えが悪くても受け入れてしまいます。手元資金が減っていく状況では、判断が甘くなるからです。

安く受けてしまう構造はこちらに、辞める時期の考え方は独立のタイミングに書きました。案件がどの経路から来るのかは独立コンサルが案件を取るまでに整理しています。

そして、**1社の答えで決めないでください。**同じ4項目を3社に投げると、答えの質のばらつきがはっきり見えます。3社分あれば、それはもうあなたの手元にある比較データです。

まとめ

「案件はいくらでもある」と言われたら、こう返してください。

「ありがとうございます。いま空いているのは何件で、職種と単価帯、開始時期はどのあたりでしょうか」

失礼な質問ではありません。発注する側なら、当然答えられる質問です。答えられないなら、その会社の中で案件がまだ形になっていないというだけのことです。

私たちの側も、この4項目を記録する列を台帳に足しました。聞いていないことを「無い」と書かないためです。同じ基準を、聞く側のあなたも持ってください。

自分の準備がいまどのあたりかを整理しておきたい方は、30秒の独立準備度チェックから入ってみてください。登録は要りません。